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May 22, 2005

勝手に師事した恩師たち2・トランスパーソナルの兄貴・吉福伸逸

 大学に入って心理学を専攻したものの、はっきりいってつまらない日々でした。実験とか統計とか、基礎心理学的なことは、科学としての心理学にとって大事なものであることはよくわかっていました。でも自分が知りたいことは、もっと違うところにありました。
 若者にありがちな疑問だったとは思うのですが、人間の意識の奥には何があるのか、生死とは、人間の限界とは何か、なんか青臭いのですが、けっこう真剣に考えていました。でもそんな問いに、行動科学を中心とした講義では答えは得られないのは明らかです。
 ただマンモス私学のよさで、授業にそんなにまじめに出なくても済んでいたので、欠席しながらもキャンパスにはよく顔を出しては、いろんなところに行きました。当時流行していたフランス現代思想、ニューアカデミズムもちょっとは勉強しました。高校の先輩でもある中沢新一さんや博物学で有名になりかけていた荒俣宏さん、ベイトソンの翻訳をした佐藤良明さんなんかが池袋西武のカルチャーセンターなどで講師をしていたので、よく聞きに行きました。シュタイナーの高橋巌さんも見たな。そういえば、二次会で中沢新一さんに「君は(ルックスが)浅田彰に似ているね」なんて言われて、うれしいようなうれしくないような変な気がしたことも・・・。

 そんな中、W大学神秘学研究会という妙な名前のサークルに入りました。興味本位で、「神秘学?なんじゃそりゃ?」という感じだったのですが、行ってみるととても面白い人たちばかりでした。そこの先輩に紹介されて、連れられて行ったのが、吉福伸逸さんのところ(C+Fコミュニケーションズ)でした。

 吉福さんは、当時40代初めでF・カプラなどニューエイジ・サイエンス物を日本に翻訳、紹介し始めた頃でした。元々ジャズのベーシストで渡米した後、バークレー音楽院で学んだり、その後いろいろな体験を経て、70年代にアメリカ西海岸中心に開花したヒューマン・ポテンシャル運動やグルジェフなどの神秘学、最先端のサイコセラピーの洗礼を受けて帰国し、翻訳家、セラピストとして活躍を始めたとのことでした(また聞き)。

 とにかく吉福さんは迫力のある人でした。でも恐い感じはなくて、質問にもいつも優しく丁寧に答えて下さったけど、何か修羅場をくぐってきたといった深い雰囲気のある方でした。声もベーシストらしく、低く太くて聞き手の胸に染み入ってくるような感じでした。
 お会いしてから、俄然トランスパーソナル心理学に興味がわいた僕は、いろいろな場でお話をうかがうようになりました。ちょうどトランスパーソナル心理学を本格的に日本に入れようとされていて、ケン・ウィルバーの「意識のスペクトル」を翻訳したり、その代表的なセラピーであるブレス・ワーク(ホロトロピック・セラピー)のワークショップを精力的に始めていました。
 僕も積極的に参加しては、吉福さんにその場でわからないことは質問していました。
 当時学生の僕は、まだ自分が何者になれるのかわからない不安を抱え、進むべき道は見つからない中、同じようにまだ海のものとも山のものともつかぬトランスパーソナル心理学を懸命に学ぼうとしている感じでした。

 吉福さんは翻訳も抜群にうまいけど、セラピーのワークショップでも、その後いろいろな方のを体験したり見させていただいた中でも、出色でした。
 元々学者ではないし、カウンセラーにありがちな線の細さもなく、存在そのものでワークを行い、どんな意識の変容現象にも対応できるようなどっしりとした雰囲気が漂っていました。吉福さん自身が、アメリカで相当の意識体験を積んでいるので、どんな心的現象にも理屈でなく体でわかるんだと僕はその様子を見て憧れていました。
 カリスマ性もありましたね。
 
 無意識の世界に直接ダイビングするようなトランスパーソナル心理学はとかく際物っぽく扱われやすいので、吉福さんはその辺は慎重に日本に紹介していこうとされ、ユング派の河合隼雄氏とコラボレートした本を出したりと、日本に健全に受け入れられるように努力をされていました。
 でも90年代に入る頃だったか、突然ハワイにご家族と移住してしまいました。ハワイではサーフィンにかなり凝ってその体験を「イマーゴ」(青土社)に連載していましたが、ラカンとかフロイトがメイン記事の中ではっきりいって浮いてましたね(^_^;)。
 元々自由人というか、どこかに安易に同一化することを嫌う方なので、バブル前後とそれから保守化する日本は居心地が悪すぎたのかな、なんて勝手に推測しています。

 人間の意識はとんでもなく多様で深いこと、心の不可思議さを教えていただきました。
 前述の頼藤さんに、物事を相対化して見ていくことを学んだとしたら、吉福さんには男の生き方を学んだような気がします。ほとんど舎弟か子分だね、ご本人はよくこっちを知らないのに(*^_^*)。

 一人の人間のなしうることには限界があり、その限界の認識や設定が人の一生を形作るということだ。もちろん、人生のある時点で、自分にできないことは何もない、やろうと思えば無限の可能性があると感じることもある。ぼく自身、そのように感じていた時期もあった。だが、頭の中にどんなアイディアが湧こうと、いかに想像力をめぐらそうと、心の底からどんなにやさしさが湧きあがってこようと、一人の人間が責任を持ってなしうることは・・・少なくとも今生では・・・限られている。驚くほど限られている。どんな優れた人であろうと、どうじたばたしようと、この限界を超えることはできない。  ・・・(中略)・・・死は究極の盟友である。死の自覚は人を目覚めさせる。人生という耽溺に満ちたまどろみから、自分自身に目覚めるのである。そして、疑問が湧いてくる。わたしは誰か・・・人生とは何か・・・何のためにこの惑星に生きているのか・・・。この時点ですべてが新たな出発点を迎える。アーナンダ・クーマラスワミによれば、自己主張によって特徴づけられる外向きの運動、追求の道から、自己実現の増大によって特徴づけられる内向きの運動、回帰の道へと方向が変わるのである。       「意識のターニングポイント」
 

 あれから僕も道は少々変わったけど、少しは大人になりまして・・・、中年になって、またお話をうかがいたい気分になっています。
 

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Comments

アド仙人様
 「勝手に師事した恩師」という考え自体が面白いです。内田樹さんもよく「先生」について書いていますが,師匠とか恩師って,弟子が勝手に憧れて勝手に師事することによって存在する構造になっているのですよね。
 で,トランスパーソナル,懐かしいです。私はちょうどバブルの頃,有楽町西武の書店(まさにトランスパーソナル系の本がずらっと並べられていた)がお気に入りでした。が,私の場合,単に本を読み漁っていただけで,アド仙人さんのようにワークショップに出かけたり,サークルに入ったりするという考えが全く浮かびませんでした。
 本や論文を読むのと,それを書いた人のワークショップに出るのって,全然違いますよね。ワークショップでその人の生の話を聞くとか,話し掛けてみるとか,一緒にワークをしてみることで,やっとその人が本に書いたことの真髄がわかるというか,その人の書いたことの切実さが身に染みるということなんだと思います。
 この記事によって本でしか知らなかった吉福さんのナマの姿を垣間見ることができ,とても面白かったです。アド仙人さんに他にどんな恩師がいるのか,興味がわきました。楽しみにしています。
(目下のところ,私が勝手に師事している恩師は,ソクラテス(認知療法家であれば当然?)と池田晶子さんです)

Posted by: coping | May 28, 2005 at 11:03 PM

 ありがとうございます。
 師弟の関係ってほんとにそうだ思います。吉福さんにお会いしなかったら、あんなにトランスパーソナルに熱中しなかったと思います。
 またお会いできなくても、単なるファン以上に強く影響を受けて、師と仰ぐなんてこともありますよね。今は僕にとっては、とっくに亡くなったアドラーやミルトン・エリクソンかな、やっぱり。copingさんのソクラテスもいいですね(ベックにはお会いしたのですか?)。ソクラテス的対話というのをアドラー派のカウンセリングの講座でも聴いたことがあります。昔「ソクラテスの弁明」とか読んだことがありますけど、確かにカウンセリング的だと思いました。
 また、いつか解説してください。

Posted by: アド仙人 | May 29, 2005 at 12:30 AM

幸運なことに,お父さんベックにも娘さんベックにもお会いしたことがあります。それどころかお二方のセッションを見学させていただく機会がありました。とくにお父さんベック先生のCBTのセッションは素晴らしかったです。CBTの構造がしっかり保たれていながら,非常にあたたかくゆったりとした感じのセッションでした。
ところで貴ブログで当方のブログをお勧めいただいていることを発見し,感謝です。で,当方もこのブログをお勧めしようと思い,よくわからないままいろいろ操作しておりましたら,一応「お勧め」ということで画面表示されました(慣れないので,とりあえずいろいろとトライしてみる・・・CBTの精神です)。
今後ともどうぞよろしくお願いします。

Posted by: coping | May 30, 2005 at 06:28 PM

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