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June 01, 2005

アドラー心理学の種1・認知論

 ここのところ自伝的記事が多いので一旦お休みして、原点に返りまして、少し専門に関わる話をします。
 アドラー心理学の基本的概念について、自分なりに順次取り上げていこうと思っています。入門書や基礎的な講座に出てくるものですが、「異端派アドレリアン」らしく勝手な解釈をするので、誤解と誤読と誤用に満ちているかもしれませんよ。

 まずは「認知論」。
 アドラー心理学といえば、劣等感か原因論のフロイト心理学(精神分析)に対して目的論を掲げたことを最初に取り上げることが多いのですが、自分はここから入ろうと思います。
 というのは、最近の心理学、精神医学には「認知」という言葉がとても多用されているからです。痴呆症を「認知症」と名称変更がなされ、発達障害や高次脳機能障害の状態像を表すのに「認知の障害」とか言ったり、基礎系の「認知心理学」もありますし、何よりもうつ病などの心理的不調、疾患に対して高い治療効果を示す認知療法・認知行動療法があります。
 今、「心の科学」の世界でのキーワードの一つは「認知」なのです。

 おそらくアドラーは、心理療法界において、「人は自分なりの見方でしか、世界を解釈できない」「その解釈に基づいて、人は行動する」ことを喝破して、なおかつそれを治療の基本に据えた最初の人だろうと思います。
 その視点をアドラー心理学では「認知論」とか「現象学」と呼びます。ただ、哲学の現象学とは共通する視点はあってもかなり違うので、心理学用語の認知論の方が通りがよいように僕は思っています。

 個人心理学(アドラー心理学の呼称)は、この「主観的現実」-つまり、我々のもろもろの印象、見解、知覚、統覚、結論-を取り扱うのであって、物理的な現実を取り扱うのではない。もしあなたが、自分は神であると信じるならば、それはあなたにとっての現実なのである。                              「現代アドラー心理学 上」(春秋社)

 人間である限り、意味づけから逃れることはできない。我々は我々の与えた意味づけを通してのみ現実を体験するのであって、現実そのものではなく、何らかの形で解釈された現実を体験するのである(アドラー)。                              「アドラー心理学基本用語集」(ヒューマン・ギルド出版部)

 

 私たちは、自分なりの「世界の見え方」「解釈のスタイル」を持っています。その色眼鏡を通して、自分とはどんな人間か、目の前の人の行動の意味は何か、そして自分はどう振る舞ったらよいかなどを決めていきます。その見え方はほとんどの場合、無意識的になっていて、オートマチックに働いています。
 あたかも、それが当たり前、真実であるかのように動いています。それは生きていく上にとても便利ですけど、あまりにも偏っていたり、うまくいかない「見方」を持っていると、いろいろな不都合が生じてくることになります。そのとき、私のようなセラピストが必要になる時が出てきます。

 でも、この「誰でも自分なりの見方を持っている」という考え方は、今では常識のようなところもあります。イラク戦争でいくらアメリカや小泉首相が大義を掲げていても、殺される側のイラク人の気持ちを理解し、戦争に疑問を持つくらいの想像力を私たちは持てるようになっています。
 でも、心理学の世界では、特に昔はそうともいえませんでした。
 目に見えるもの、測れるものだけを頼りにする「客観的態度」か、証明不能な抽象的理論や常識的な情緒に縛られるしかなかったといえます。
 私たちが、自分には自分の見方しかないことを認めたのは、ごく最近のことかもしれません(内田樹さんによればレヴィ・ストロースの構造主義の成立によるところが大きいとのことです)。
 でも本当に私たちがお互いの見方を認めることができているかといえば、大きくは日中問題などの国際関係から小さくは職場や家庭の人間関係まで見渡してみると、全くできていないのも明らかです。

 そこから私たちは自分の世界観、認知のパターン、癖から逃れることはできるのだろうか?少しはできるかもしれないし、できないかもしれない。「悟っている」人は、できると主張するのかもしれません。
 実践的には、「それはなかなか難しい、けどちょっとした修練をしてコツを身につけるとよいのよ」とするのがよいかもしれません。
 アドラー心理学のカウンセリングを学び始めて面白かったのは、人の話を聴く時には思いっきり相手のことを推量して、想像をたくましくして聴きなさいと教えられたことでした。一般には「心を空にして」「無心に」「一切の偏見を持たずに」など、カウンセラーはクライエントの前では、心を白紙にしなさいといった風に教えられるのではないでしょうか?
 でも、それは無理。心を空にすることは、凡夫にはできない相談と見極めることです。
 自分の偏見を自覚し、相手の偏見と交わっていく、自分の勝手な推量を相手に伝えて当たっているかはずれているかを検証し合っていくこと。その中で、どこか不具合のあるところを発見、発明して修正、創造していきます。そういう姿勢が持てれば、後はテクニカルな問題です。
 そして、クライエントの認知を修正したら、気がついていたら自分の認知も変わっていたなんてこともあり得るのです。

 その意味では、私たちの認知システムはけして閉鎖系ではないのかもしれません。自分を含めて頑固者は多いけどね(^^;)。

 

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Comments

アド仙人様
 アドラー心理学については,ほとんど勉強したことがないので,このシリーズ楽しみです。認知療法学会で以前「早期回想」について発表なさった先生がいらっしゃって,その先生に多少「早期回想」とか「ライフスタイル診断」について教わった程度ですが,その先生が認知療法学会で発表なさるということ自体が,CBTとアドラーには関連性があるということになりますね。
 基礎心理学が行動主義から認知心理学に移行しているのも,臨床でも認知が重視されつつあるのも,人それぞれにその人なりの世界との関り方や世界観(すなわち認知)があって,それを扱うことが不可欠であるとの認識が共有されつつあるということでしょうか。
 「人の話を聴く時には思いっきり相手のことを推量して、想像をたくましくして聴きなさい」との教え,面白いです。かなりCBTにも通じますね。自分を白紙にしてクライアントの話を聞くなんて,私にも無理です。だからこそ相手の話を聴きながら,自分なりの「仮説」を作って,それがクライアントにぴったりくるかどうか慎重に確かめながらすり合わせていく,という作業が必要なのだと思います。
 最近,認知心理学や認知科学の最新のテキストを,必要に迫られていろいろと読んでおりますが,以前は「閉鎖系」として扱っていた認知を,「開放系」として日常的そして社会的な文脈のなかで扱っていこうというチャレンジが活発になっていることを知り,ワクワクしている次第です。
 「開放系」なんだということを肝に銘じておくだけで,私のような思い込みの激しい人間は,自分の思い込みに歯止めをかけ,より大きな見通しのなかで,自分の思い込みを多少は相対化できるように思います。またそういった作業を対話を通じて進めていくのがCBTなのだろうとも考えております。
 いろいろ触発され長々と書いてしまいました。ありがとうございました。

Posted by: coping | June 01, 2005 at 10:31 AM

 copingさん、ありがとうございます。
 おそらくその学会で発表された先生は、多分僕の知り合いかもしれません。思い当たる節が・・・。
 そんなで認知行動療法には親近感が当然ありますし、その学問的厳密さは、さすがと思っています。よろず大ざっぱな僕にはなかなかできませんけど、その成果を大いに活用させていただきたいです。
 また教えてくださいね。

Posted by: アド仙人 | June 02, 2005 at 12:16 AM

アド仙人様
こんにちは。ようやく重い腰を上げて,「トラックバック」なるものにトライしてみました。「認知」の話題つながりでよろしいんじゃないかと思って,勝手にこの記事につなげてみましたが,もし失礼なことをしていたらすみませんです。
それではアドラーの記事,武術の記事,今後も楽しみにしております。(武術というか,身体操作的な話には,なみなみならぬ興味が・・・笑)

Posted by: coping | June 07, 2005 at 12:14 AM

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