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July 11, 2005

想像力が引っ張る

 また調子こいて、内田樹先生へのトラックバックです。最近の記事は、僕の心理療法観から見ても、とてもおもしろかったもので。

「具体的に想像する力がある人は、幸福になれる」という話ですが、一歩間違うと自己啓発セミナーなんかの願望実現法みたいですけど、実際のところ人間ってその通りだと思うのです。

何はともあれ、想像力を駆使することはたいせつである。
繰り返し申し上げているように、その細部まで想像された未来は、想像されていない未来よりも実現される可能性が高い。
輪郭のくっきりした未来像には私たちをそこへ引きつける「牽引力」がたしかにある。

妄想と想像は違う。
妄想というのは「記号的なもの」である。
想像というのは「具体的なもの」である。
「宇宙人が私を監視している」という妄想を持つ人にとって「宇宙人」はほとんど「宇宙人」という「文字」にまで縮減されている。
妄想には「具体的な細部」がない。
具体的な細部は、私たちが「その名前を知らないもの」や「それが何の機能を果たしているのかわからないもの」まで含んでいる。
真に奔放な想像力は、「私がその名を知らないもの」をその細部にわたって画像のうちに取り込むようなことができる

 これを読んでふと思い出したのが、僕がカウンセリング場面でよく使う質問技法で、マジック・ワンド(魔法の杖)・クエスチョンというものです。クライエントの悩みが解決した未来の世界にさっと焦点を当ててもらうために行います。それを実現するための方法は取りあえず、問いません。子どもにも、大人にも使える汎用性の高い技法です。例をテキストから拾ってみましょう。

クライエント 「娘のことでは、もうお手上げです」セラピスト「奇跡が起こったと思って下さい。娘さんとの関係が一挙に良くなったと思ってみて下さい。するとあなたの生活はどんな風になりますか

クライエント「学校の方もうまくいきません。仕事もだめです。家族との関係もよくありません。八方ふさがりです」  セラピスト「いや、ちょっとだけお聞き下さい。あなたの願いがかなって、何もかもうまくいったとしたら、あなたはそのときどんな風にしていますか」 クライエント「もう一度芸術に打ち込みたいですよ」  セラピスト「魔法の杖が願いをかなえてくれて、芸術の女神が豊かなインスピレーションを与えてくれたとしたら、どんな芸術に取りかかりますか」                      ビル・オハンロン「可能性療法」(誠信書房)

 他にも、眠っている間に奇跡が起こって、全てが良くなってしまって、朝起きてからの違いを細かく聞いていくミラクル・クエスチョンなど、いろいろなバリエーションがあります。アドラー心理学やブリーフ・セラピーの十八番ですね。ただ単に、夢や願望を聞くのではなく、それが実現した状況を細かく描写してもらうことが大事だとされています。

具体的な想像力は「強い想像力」であり、記号的な想像力は「弱い想像力」である。
強い想像力は現実変成の力を持っている。
  

  援助者は、「強い想像力」を利用して、クライエントさんの「現実変成の力」を高めたいものです。オハンロンも、「問題が解決しなくても、こうして目標が明らかにされたというそれだけの事実が、しばしば、クライエントを目標に引き寄せる力になるのです」と書いてます。

 本人や家族などの周囲が、症状や問題行動にネガティブなレッテルを貼ってばかりで身動きが取れなくなっている時には、視点をずらし、方向性を変えさせるのにこういった質問は有効で、それができると翻って今の問題に取り組む勇気もわいてくるかもしれません。実施に当たっては、それが適切だというタイミング、「間」の判断が必要かもしれませんが、あまり構えず気軽にやるのが良いようです。

それは強い想像力を持っている人には「100%想像した通りの未来」が訪れるということではない。
そうではなくて、強い想像力を持った人はあまりに多くのディテールを深く具体的に想像してきたので、訪れるどのような未来のうちにも、「ぴったり想像した通り」の断片を発見してしまう、ということなのである。
その発見はひとにある種の「既視感」をもたらす。
「既視感」とは「宿命」の重要な構成要素である。
だから、想像力の豊かな人は、どのような人生を選んだ場合でも、そこに「宿命の刻印」を感知する。
自分がいまいるこの場所が「宿命が私をそこに導いたほかならぬその場所」であり、自分のかたわらにいる人が「宿命が私をそのかたわらに導いたほかならぬその人」であると信じてしまう。
そういう人は幸福である。
想像力が豊かな人は、だから構造的に幸福な人なのである。

 僕も今いる状況はもちろん100パーセントではなくて、嫌なこともいっぱいあるけど、いつも既視感というか必然を感じてしまう、幸せなのかな・・・(*^_^*)。

 それにしても、内田先生は僕に近い領域ではラカンについてよく書いておられたけど、こういう見方がどこから出てきたんだろう。僕は最近ファンになったのでよく知らないのですが。共著も出したご友人、精神科医の名越康文さんが僕と同じくアドラー心理学をベースにしている(た?)ので、その影響もあるのかなあと勝手に思ってますが。

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Comments

「その細部まで想像された未来は、想像されていない未来よりも実現される可能性が高い。」
そう言われてみれば、そんな気がします。

実現しちゃったら困るようなことを想像すると現実にそれが起こり、逆に、実現したいことに想像力を駆使すると現実へと向かっていくような気がしています。

先日、不幸な出来事で子どもさんを失った知り合いと話したのですが、こんなふうに子どもを失うかもしれないと予知!?していたらしいのです・・・・。

私も彼女も子どものことで、様々な不安を持っています。
でも、これからは良い方向で物事を考えて行こうね♪ってことをお互い再確認しました。

Posted by: アドママ | July 12, 2005 at 01:43 PM

 アドママさん、こんちわっす(^^)。
 まあ、未来のことを不安に思うのも生存上、大事なことで意味のあることでしょうから、否定することはないと思いますけど、ベースは良い方向で想像していきたいですよね。

 このブログも始めるまでは、こんな中途半端な知識しかないし、目立った業績もない自分が、不特定多数の前で意見を開陳して大丈夫だろうか?なんて不安が柄にもなくあったのですが(ほんとに)、やってみると楽しいものです。

 良い未来を引き寄せたいものですね!

 

Posted by: アド仙人 | July 12, 2005 at 11:19 PM

アド仙人様
こんにちは。ご紹介くださったおかげで,内田樹さんのブログを読むのも日課になりました!
“細部にわたってありありと想像する力”ということの力強さは,アド仙人さんも私もきっと日々の臨床のなかで,同じように体験しつづけているのだと思いました。
CBTでも,たとえば問題解決法といった技法では,目標イメージや解決イメージを,これでもか!というぐらいクライアントさんに問いつづけます。というか,クライアントさんと一緒に作り出す,というほうが正確かな。
そのためにもまずは自分自身が,細部までありありと想像するエクササイズを続ける必要がありますね。と書きつつ,たとえば「今日帰ったらあれ食べよう」といったことは,日々細部にわたって想像しつづけているのですが(笑)。これがいわゆる「健康」の証なんでしょう。
それでは内田樹さんシリーズも楽しみにしております。

Posted by: coping | July 12, 2005 at 11:46 PM

 アド仙人様
 このブログでは初めまして、だと思います。
 ブリーフの参考書を紹介して頂いたりと、度々お世話になっております。
 ところで、精神病理一辺倒のところで訓練されていると了解可能性の話に終始しがちで、物足りなさを感じることもありました。ところが、
 
 妄想というのは「記号的なもの」である。
 想像というのは「具体的なもの」である。

という定義を聞くと、今までの自分が盲だったような気がしてきます。これで、仕事の楽しみが増えそうです。
 もう一点。たとえば「声が無くならないおかげで、あなたがなさりたくても出来ないで困っていらっしゃるのはどんなことですか?」と尋ねても、ここで具体的な事柄が語られなければ、それはより生理的な苦痛なのだろう。具体的な話が出てくれば、それがその人にとって回避したい課題なのだろうと考えて終わっていましたが、その先があるのですね。
 オハンロンも近々読みたいと思います。
 どうもありがとうございました。
 

Posted by: 蚯蚓海豹 | July 13, 2005 at 11:57 AM

 coping様
 CBTは、まさによくできた想像力のトレーニングと言えますね。相手と一緒にやることで、自分の想像力も鍛えられるような気がします。僕も想像と妄想の間を行ったり来たりの毎日ですが、おかげ様で飽きない人生を送れそうです(^o^)。

Posted by: アド仙人 | July 14, 2005 at 12:20 AM

 蚯蚓海豹様

 どうも、いつもお世話になります(ところで何て読むの?)。
 精神医学的に正しい言い方かはわかりませんが、他分野の方の優れたコメントで、気づかなかったことに気づかされるっていうことはありますよね。内田さんは中でも出色だと思います。

 こういった質問技法は、診断的に使うこともできるし、解決イメージを創るためにも使えるし、いろいろ現場で工夫するのがおもしろくて、僕は好きです。外しても、そんなに致命的にはならないし。また良い例があったら教えてくださいね。
 このブログもよろしくお願いします。

Posted by: アド仙人 | July 14, 2005 at 12:30 AM

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