勇気づけはコミュニケーション失調症候群に効くか?
自分は、内田樹さんのブログを毎日のように愛読しているのですが、前回ここでアドラー心理学の勇気づけについて書いた直後に、それに関連するかのような、とてもおもしろい記事がアップされていました。そこで思い切って、トラックバックさせていただきました(ドキドキ)。
内田氏は、最近とみに目立つセクハラ、アカハラなどのハラスメントといった正当性はありながらも一方的になりやすい人間関係を、何か根本的な勘違いをしている「コミュニケーション失調症候群」として、コミュニケーションの本来的な構造からその意味を解き明かします。
つまり、コミュニケーションにおいて、メッセージの「解釈の仕方」は、語詞レベルではなく、非言語的なレベルにおいて受信される側に「察知してもらう」ほかないということである。
逆から言えば、表層的な語詞レベルのメッセージでは、言葉は無限の誤解の可能性に開かれている。
グレゴリー・ベイトソンは『精神の生態学』の中で、コミュニケーション失調の端的な徴候として「何を言うつもりでその言葉を言っているのかが判定できない」ことを挙げている。
例えば、「今日は何をするつもり?」という問いかけを「昨日みたいなバカな真似は止めてくれよ」という「問責」と取るか、「ねえ、いいことしない?」という性的な「誘い」と取るか、それとも語義通りに「質問」しているのかが判定できないのがコミュニケーション失調の症候である。
私たちは、ふだんは前後の文脈や表情やみぶりや声のトーンやあるいは「オーラ」によって、多数の解釈可能性のうちから、もっとも適切な解釈を瞬時のうちに採用している。
「暖かい波動」や「優しい波動」が身体的なレベルではっきりと受信されていれば、言語的メッセージが解釈次第では聴き手を傷つけるコンテンツを含んでいても、受信者はそのような解釈を採用しない。
だが、どうやらこの非言語的メッセージの送受信能力が近年とみに低下しているように私には思われるのである。セクハラ、アカハラ事件の多発はおそらくその兆候である。
前回僕が勇気づけの解説に引き合いに出したベイトソンのコミュニケーション論を、さらに詳しく説明してくれています。「暖かい波動」や「優しい波動」が相手に身体的レベルで受信されていることが、勇気づけにも必須の条件なのは間違いないでしょう。
問題は、どうやってその「波動」を相手に届かせるか、感じてもらえるかです。氏は、続けて、現代におけるコミュニケーションの困難性を受信者の世界の側から説きます。
「誤解される可能性のあることを口にして、現に誤解された」以上「そんなつもりで言ったんじゃない」という言い訳は通らない。
これが今日のセクハラ、アカハラ問題の判定基準である。
それは言い換えれば、メッセージの受信者には「複数の解釈可能性のうちから、自分にとって最も不快な解釈を選択する権利」が賦与されているということである。
コミュニケーション感度の高い人間とコミュニケーション感度の低い人間のどちらがこの権利を活用することになるのか、想像することはむずかしいことではない。
結果的に 私たちの社会はこれから自分宛のメッセージが含む複数の解釈可能性の中から、自分にとって最も不快な解釈を選択することを政治的に正しく、知的なふるまいとみなす人間たちを量産してゆくことになるだろう。
それによって社会が住みやすくなるとか、人々のコミュニケーション能力が向上するだろうという予想に私は与しない。
「自分宛のメッセージが含む複数の解釈可能性の中から、自分にとって最も不快な解釈を選択することを政治的に正しく、知的なふるまいとみなす」、そういう認識の人が果たして増えているのかどうか、僕にはわかりません。ただ、社会の雰囲気は確かにその方向に流れているのを感じますし、臨床の場面を思い出しても、なんか腑に落ちそうな気がします(まあ、クライエントになる方には、そういう傾向が強い人が多いのかもしれませんが)。
そんな人に臨床のあまたの技術は、そして勇気づけは通じるのでしょうか?教科書的には、相手とラポールを取って、相互尊敬相互信頼の関係で、心を寄り添わせて、呼吸を合わせて、相手の変化の理論に合わせて・・・・等々、受信者(クライエント)に何らかの形、レベルでこちら側を合わせていく作業を丁寧にしていくことになるのかもしれませんが・・・。
そして、「複数の解釈可能性の中」から、自分にとって最も、あるいはより快適、建設的な解釈を選択してもらうように働きかける、これが僕らの仕事かな。
少なくとも「暖かい波動」や「優しい波動」は必ずしも相手に無条件に受け入れられるものではない、これは肝に銘じないと・・・。おそらく、暖かいとか優しいというのは、その場の人間関係の「質」を表すものとして、事後的に決められるものなのかもしれません。
などなど、とても刺激的な記事でした。内田先生、ありがとうございました。



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