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October 31, 2005

共同体感覚の臨床的ご利益

 これまでアドラー心理学の共同体感覚という考え方について紹介をしてきました。

 アドラー心理学の種10・共同体感覚  共同体感覚のスペクトル

 あ、それからこの間行われた臨床心理士の試験問題に、選択肢のひとつとして、アドラーと共同体感覚が出たらしいですね。時代も変わったもんです。このブログを読んで下さった受験生の方は(いるのかな)、正解できましたね(^_^)v。

 共同体感覚の思想的定義、意味づけについては話したので、今回は実際の臨床や生活上、どんな風によいことがあるのか考えてみたいと思います。心理療法やカウンセリングの治療目標ということなら、症状消失とか社会適応とか、わかりやすく簡単にいえばいいのに、「共同体感覚の育成」なんてわざわざこなれない言葉を使うからには目的があるかも。きっといいことがあるはず!

 でも共同体感覚を知っていたり、理解すれば劇的に治療効果が上がるとか、よく治るとかそういうことはあまりないらしいです。残念。

 ではどんな意味があるのか。私は、それは治療目標について自分がどんなスタンスでいるべきかをセラピスト側が吟味することにおいてだと思っています。

 心の問題とは何かについて、個人とその周囲の共同体(家族、学校、地域、社会・・・)との関係のミスマッチング、葛藤、悪循環であると見た時(多くの心理臨床学ではそう見ているはずです)、そこから「治る」とは、その人が属する共同体への復帰、そしてその人に対する共同体からの承認が成立したときと考えることは妥当かもしれません。

 心理療法の結果、見事不登校の子どもが学校に行けるようになって、ついでに親御さんや学校の先生から「元気に通ってきています。よくなりました。ありがとうございました」と認めてもらえれば満点というイメージでしょうか。

 その問題で苦しんでいるクライエントが当座は救われたのだから、多くの場合はそれでいいのだと思います。そんな風にうまくできれば、きっと優秀なセラピストです。私も一応はプロですから、ほとんどの場合はクライエントの主訴に沿った対応をします。

 でも時には、クライエントが戻るべき共同体は、ほんとうにそこだろうかという反省が必要な時があるかもしれません。極端な場合、ナチスのような全体主義社会みたいに、その人の所属する世界の方が狂っている時、そこでの「不適応」は正常の印かもしれないからです。実際今の社会は、はっきりいって反共同体感覚的ですからね、たとえ治ったとしても幸せにはなかなかなれないのです(僕らみんなそうね)。

 前にも説明したように、アドラー心理学でいう共同体とは、現実の社会とは必ずしも重なりません。家族や学校、職場だけでなく、地域や国家でもなく、個人が関係するすべての環境を意味しているのです。そんな心の中にある共同体へ関わる意志というものが誰にでもあるのではないか、それを健全に育てることが、ひいては現実の社会に対して建設的な行動につながるのではないかとアドラー心理学では考えていると思います。

 よく「この子は社会性がなくて」とか「協調性が足りない」という「問題」を聞くことがあります。現象的には確かにそういうこともあるかもしれませんが、ほんとうにすべてをその一言で片づけられるのかという疑問が私にはあります。彼の共同体感覚は普通の人とは違うあり方をしているのかもしれない。そう思ってみるのは無駄ではないでしょう。

 そうして彼の共同体感覚を感じ取って信頼することができれば、こちらは自信を持って、「社会適応しなくてもいいんじゃないの」「人のことはいいから、自分のことをもっとやろう」とか言ってあげられるし、その方が治療的であり、共同体感覚の育成になることがあるかもしれません。

 共同体感覚という言葉を使う使わないにかかわらず、こういうスケールの大きい、ある意味非現実的かもしれないイメージを持つことで、現実のミニマムなあれこれをリフレーミングする文脈になるのではないかと考えています。

 アドラー心理学の核心で最良の部分ですが、まだうまくいえません。取りあえず今回はここまで。また考えていきます。

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