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October 18, 2005

勝手に師事した恩師たち4・身体論の怪人・高岡英夫

 いよいよ世紀の運動科学者高岡英夫氏に登場していただきます。僕がこの約10年間、直接学ばせていただいている武術や心理学を除けば、最も知的、身体的に大きな影響を受けた方であります。今まで紹介した方々(頼藤和寛さんやベイトソン)と違って、まさに現在進行形の方でありますので、世間的な評価は定まっていないかもしれませんが、僕が見るに、心身問題を巡る理論と実践において、氏は歴史に残るほどの「天才性」を発揮していると思っているのです。

 高岡氏は最近ゆる体操でブレイクして、出版数は飛躍的に増えたし、メディアにもよく出ていて、ついにはNHKにまで登場するようになりましたが、氏の展開する、本質的にかなりぶっ飛んでいるはずの身体意識論を承知した上で出てもらっているのか(そんなはずないね)、意味もなく心配しちゃってます。別に危ない思想ではなく、かなり本質的で真っ当な議論を氏はされていると思うのですが、現在の学問の枠組みをかなりはみだしているといっても過言ではないですからね。それに氏は、ただ頭がよいだけじゃなくて、合気などの武術の達人であり、それを公開したり、ゆる体操みたいな臨床的な可能性のある技法を創り出して実証的な研究をしているところにも、僕なんかはしびれちゃいますね。

 ここでは、スポーツや武道の記号論的分析や評論から画期的なトレーニング理論身体意識論、リラクセーション体操「ゆる」の普及など多岐に渡る氏の仕事を紹介する余裕ないので、あえて説明なしに語ります。知らない方には何のこっちゃでしょうから、関心が出たら当たってみて下さい。

運動科学総合研究所

 先ずは、僕がどんな風に高岡理論と接したかを簡単にお話しします。10年ちょっと前、まだ僕が20代だった頃、ちょっとした壁に突き当たっている時期がありました。太極拳などの柔拳を学んで何年か経った頃で、ようやく実力がつき始めたこと実感していましたし、これは武道的に大変高度で強いものだと確信していましたが、自分自身はまだそれにほど遠い状態なのも確かでした。簡単にいうと十分に「力が抜けない」のです。脱力がなかなかうまくできない。力を抜いているつもりでも、実際に上のレベルの人と推手をすると全く歯が立たない。普通の人よりは脱力ができていたと思いますし(動作法の講習なんかで「すごく抜けてるね」なんて言われてましたよ)、友人のフルコンタクト空手家と手合わせしてもひけは取りませんでした。でも我が派の上級者とやると当たり前だけど、レベルが違いすぎるのです。「どうしたらああなれるだろうか」と自問自答していました。

 それから「もう一つの壁」もありました。学問的というと格好はいいのですが、身体と意識、心と体の関係をどう考えたらいいのか長年取り組んでいる自分の臨床心理学的実践と武道や気功の実践とどうつながっていくのかが、なかなか見えなかったのです。東洋と西洋というか、二つの文化間の乖離が僕の認識の中で埋まらないのです。

 気を中心にした東洋の身体観は、西洋科学的認識論からはナンセンスなものしか見えません。気を科学的に研究すると称する学者もいましたが、脳波がどうしたとか生理学的な対応関係を推測するものが中心でした。心理学というか人文科学からは、「心身相関」「心身一如」がお題目のように唱えられていても、具体的なメカニズムの説明に乏しいと思えました。また現象学などの身体論的哲学は、やけに抽象的で、そのまま使えるものではありません。最近は、精神科のデイケアや老人のリハビリなどで気功法を取り入れているところも出始めていますが、まだ実用・レクリエーション・レベルにとどまっているように見えました。僕は前にカミング・アウトしたように、心理芸者であって、研究者ではありませんが、自分の芸に一貫した「ことば」を持っていたいとは思っていたのです。そうしないと自他に実践内容を説明できないのでね。

 そんな時期、毎月購読していた武道専門誌「秘伝」(BABジャパン)に登場したのが売り出しはじめの高岡英夫氏でした。まだゆる体操や身体意識論を本格的に展開する前でしたが、養神館の塩田剛三先生などの武道家との対談シリーズやトレーニング理論や武道・格闘技の記号論の記事を毎号読んでみると、「これはすごいかも」と直感が確信に変わっていきました。僕はアドラーでも柔拳でも、あまり世間で知られないうちに目をつけるという目端が利くところがあるのですが、高岡氏についてもまさにそうでした。「お主、ただ者ではないな」と素直に思えたのです。 

 それからは読みまくりましたね。各種武道や格闘技を記号論や構造主義、弁証法をベースに驚くほど正確に分析した「空手・合気・少林寺」(恵雅堂出版)と「武道の科学化と格闘技の本質」(同)、当時流行していた単純な筋トレは一流の道にあらずとして、意識と身体的トレーニングとの融合を説いた「鍛錬」シリーズ(同)、そしてデビュー間もなき若きイチローがオリックスで200本安打を放って世間の注目を浴び始めた時期に彼の卓越性を早々と予言して、初めて身体意識という概念を提出した「意識のかたち」(講談社)・・・・。身体じゃなくて僕の頭だけは、かなり高岡式トレーニングを受けましたよ。おかげで、考える力がついた気がします。

 そして、ついには氏の主宰する団体のワークショップにも何度も足を運ぶようになり(千葉の市川や東京でよくやっていました)、実際にそのメソッドのいくつかを学ばせていただくこともできました。高岡氏も著書とは異なり、厳しい部分はありながらもとても気さくな方で、この上なく面白い方と知ったのもよかったですね。でも立ち姿は、やはりさすがという雰囲気がありました。

 その成果は・・・、すごい!おもしろい!やった!の連続でした。少なくとも当時僕の感じていた壁のいくつかは乗り越えることができたと思います。先ずは、脱力のレベルが上がって技が効きやすくなりました。僕の生徒も「さらに強くなった」と納得してくれました(もちろんいまだに達人のレベルではありませんよ)。学問的にも、身体意識論を軸にすることで曖昧だった心身相関の問題を解く糸口が見つかったように思えたのです。

 それで氏の理論と実践のおもしろさに、一時は臨床心理の道を捨てて本気でこの世界に関わろうかと思ったこともありましたが、学び続けるにはコストも時間もかかるし、他にも学ぶべきことはいっぱいあるので、やはり自分のフィールドはここだと思い直して、今は地道に自分の鍛錬を続けているところであります。

 高岡氏の理論と実践はまだ進化と拡大を続けてるようです。僕も一ファンとしてできるだけフォロー、応援していきたいと思っています。ここでも、僕の理解の範囲で心理学に関心のある方にもわかっていただけるように、高岡理論の紹介をしていくつもりでいます。

 

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Comments

私はスポーツトレーナーをしています。オリンピック選手等も数多く関わっています。組んだトレーニングプログラムは千通を超え、整体は述べ何万人です。7年前に高岡先生の本を見たときは正直、なんだこの詐欺氏野郎は・・・・ばりの感想でした。しかし、去年、何かの問題があるがそれがわからず、壁が破れない時に古本屋でふと手にした本が高岡先生のそれ、数年前は宗教扱いしていたのが、そのときは『まさに迷っていたのはこれだ!』でした。それからは、DS理論を今までの技術と組み合わせると問題がつぎから次へと解決できました。それ以上に過去のなぜか気になっていたイメージがDSに当てはまることも多々あります。まさに天才とは高岡先生のためにある言葉では?でも相当既存のトレーニングスタイルで悩みぬかないとあの理論は理解できないと思います。私自身まだまだ理解が足りないし、解釈が変化していきます。でもセミナーなどを受けるより、全書籍に近く読み下し、現場で当てはめ、悩みぬくことが最重要だと考えています。まわりの人間が高岡氏をゲテモノ扱いしているのを見て、少しほっとする器の小さい私でした。

Posted by: ブレ | August 15, 2007 at 02:34 PM

 ブレさん

 コメントありがとうございます。
 プロのトレーナーですか!すごいですね。
 日常的にそのお仕事をしているとかえって、高岡氏の評価は難しい、というか認めにくいところがあるかもしれませんね。近すぎるというか。

 私の場合は、武道というより、臨床心理学や宗教学、記号論なんかをかじっていたので理解しやすかったのかもしれません。

 でも、ご自身の「壁」という問題意識から理解されるようになったのは素晴らしいと思います。お互いそれぞれの「現場」で当てはめて考えていきたいですね。

 何かおもしろい知見や経験がありましたら、是非教えて下さい。

Posted by: アド仙人 | August 16, 2007 at 12:35 AM

おひさしぶりです。

先日、コメントでお世話になったブレです。

依然として高岡氏の身体意識を現場で実践解釈しているところ
私の担当するエリート選手の中には確実に無意識に地平線彼方
まで意識をとばしていると言わざる得ない者がいます。

そのあたりの要素に手を加えるとかなり手ごたえを感じます。

自分自身とても世界観が変わりました。

また、その影響もあっていろいろ思考をうろつかせている内に
変性意識というものにたどりつきました。


是非、変性意識の究極の状態というものを薬などの力を借りずに
経験してみたいと思っています。

また、視野が広がるのではないでしょうか?

また、経験せずとも学術的に少し知りたいと考えていますが、
先生はなにか入門書のようなものをご存知ですか?

よろしければ教えていただけませんか?

Posted by: ブレ | October 02, 2007 at 11:07 PM

 ブレさま

 お久しぶりです。熱心な実践をされている様子で、感心します。

 お尋ねの変性意識についてですが、まさにこのテーマの本質であり、人類の歴史と共にあるもので、無数のアプローチがあるのではないでしょうか。

 直接的に変性意識を扱う心理学の代表にはトランスパーソナル心理学か催眠でしょうか。
 お勧めはトランスパーソナル心理学の代表的論客ケン・ウィルバーのデビュー作(20年以上のものですが)「意識のスペクトル」(春秋社)かな。多様な東西の宗教、心理学の変性意識を巧みにまとめ上げています。

 ただ展望的理論書ですから、現場向きではないかもしれません。

 催眠は私はミルトン・エリクソンの現代催眠を学んでいます。とても自然に人の内に眠っているリソースの引き出し方に富んでいて面白いですよ。
 「エリクソン催眠入門」(金剛出版)など、今はかなり出ています。
 エリクソン催眠からでたNLPは、スポーツのコーチングのメソッドの一つになっていると聞きます。

 私が経験した変性意識は、トランスパーソナル心理学のセラピー(激しい呼吸を繰り返して、意識を変えていくものがあります)、気功法、催眠やイメージ・セラピー、ヨガ、チベット仏教の瞑想法、シャーマニズム、高岡先生の気功や呼吸法など、これまでたくさんありますね。

 どれも目的によって変わってくるので、体験するしかないかな、という印象です。

 逆に言うと目的と手段、「トリップ」してから「日常」に戻ってくる道筋が明確なことが大切ではないかと思っています。変な「洗脳」はごめんですからね。

 なかなか難しいご質問ですが、改めて考えてみたいと思います。

 ありがとうございました。

Posted by: アド仙人 | October 03, 2007 at 11:05 PM

ありがとう、ございました。

とても舵取りの参考になります。

チベット密教、クンダリーニ・ヨガの本は何冊か、買い込んだの

ですが、やっぱり学術的な裏づけも必要に思いまして・・・。

amazonで調べなしたが、少し難しそうですね。

当然だと思いますが・・・・。

しかし、今回の土俵は大きく良い影響を自分に与えてくれると

感じています。

最近、太気拳などにもとても興味がありまして・・・・・。

また、完全にお忘れになったころ、細々とコメントをさせていただく

かもしれません。

お時間があれば、ぜひよろしくお願いします。

ありがとうございました。

Posted by: ブレ | October 04, 2007 at 10:03 AM

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Tracked on January 16, 2006 at 08:55 AM

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