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March 07, 2006

闘うか逃げるか

 先日何気なくK-1のテレビを観ていたら、ある選手がインタビューで「俺は殴り合いで逃げたことはない」といかにもやんちゃな格闘家という顔つきで自慢していました。
 それを聞いて私は、スポーツや格闘技という枠の中で自己表現する彼らなら、当然そうあるべきだろうなと納得しながらも、「武術的」にはどうなんだろう、という疑問も持ちました。護身術、身を守る技術たるべき武術には、当然逃げることも視野に入れなくてはならないからです。
 逃げられたら逃げる、隠れることができるなら隠れる、闘わずにすむなら闘わない、平和が一番なのです。武術家は平和主義者でなければならない、と私は思っています。そこが格闘技と武術の違いのひとつです。単純な「どっちが強い論争」に還元できないのです。

 でも一方、武術家は普通の人と違って、いつも逃げてばかりでもいけない。どうしても逃げられない時、また、たとえ逃げられても守るべきものを死守すると決意した時は、断固闘わなければならない、そういう決意をした人間であるべきです。

 闘うか、逃げるか。人生のおける様々な局面で、適切な見極めができる、決断をできるようになることを目指しているのが武術家、武士だと私は思っています。だから、具体的な武術、格闘術を知らなくても、そういう覚悟で生きている人には武術家的雰囲気があります。

 とまあ、偉そうなことをいっても私も、これまでの人生で、闘うべき時に逃げてしまったことが何度となくあって、後悔していることがたくさんあるから、改めてそう思ったわけで・・・。だから、そんな人間に私はなりたい・・・。

 ただ、数年前パリでの経験は自分にとって印象的な出来事でした。
 パリの地下鉄などは、スリや引ったくりが白昼堂々と「お仕事」をしていることで知られています。スリといっても日本みたいなエレガントな技術を持っているわけではありません。グループで取り囲んで、殴ったりして強引に鞄や財布を強奪するのですから、強盗といってもいいかもしれません。
 私は、ツアーで知り合った日本人の新婚カップルさんと一緒に行動していました。ある美術館に行くために、彼らと地下鉄の駅のエスカレーターを上っていました。上りきるとそこは誰もいない、広いけれど薄暗く静かな通路でした。早足の私は、多少気を遣ったこともあって後ろのカップルと10メートルほど離れて歩いていました。
 突然、後ろでバタバタっと音がしました。
 振り返ると、旦那さんがアラブ系と見られる背の高い男に後ろから羽交い締めにされ、前からはもう一人の男にグイグイ鞄を引っ張られているではないですか!奥さんは恐怖でか、その場で立ちすくみ、体が固まってしまったようでした。
「いかん!」と思った次の瞬間、私の体はポーンと飛んで彼らの前にいました。そして、護身術の基礎通りに、大声を出して(日本語だけど)、今にも飛びかからんばかりの体勢で構えました(形意拳の三体式というものです)。
 さあかかるぞっと動き出したとき、突然目の前に現れた私に強盗たちは虚を突かれたのか(私の顔が恐かったのか)、驚いた表情でパッと両手を旦那さんから離して挙げ、「取らない取らない」と手を振りながら、逃げていきました。ふうと一息をついて、事なきを得たことを旦那さんと確認し合い、お二人から感謝の言葉をいただきました。
 あのときの動きは我ながらすごいというか不思議な感覚でした。まるでテレポーテーションみたいだった。もちろん意識は冷静で、相手の動きもよく見えていました。今振り返ると、形意拳の転身の動きだったように思えます。全く無意識的に、反射的に体が動いていたのです。

 仲間が襲われているわけですから、この時は自分にとっては、当然逃げるべきではなく、闘うべき時でした。
 もし強盗たちがナイフなどの武器を使っていたら大変なことになったかもしれませんが、それはそれで状況判断を瞬時に下しながら、いかに闘うか、そして逃げるかを考えたことでしょう(うまくいったかどうかはわかりませんが)。
 必要な時に、ごく自然にあるべきように体が動いてくれて、私の拙い修練も無駄ではなかったな、先生に感謝しなくては、と心の底から思えた時でもありました。

 こんな風にいつもうまくいけばいいのですが、アマチュアながら、一応武術の看板を掲げている者としては、常住坐臥、いつでも適切に身を処せるように心がけていきたいものです。

 

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