ゆるんで育てる
武道・武術の専門誌というかマニアックな雑誌に「月刊 秘伝」(BABジャパン)というのがあります。けっこういろいろな武道の情報があって、資料的価値もあり、昨今の身体論ブームの先駆けともなった雑誌なので、私は毎号買っています。
その「秘伝」誌の今発売中の5月号になんと、子育ての特集が。でもそこはママさん雑誌や心理・教育系のものとは違って、テーマは「達人を創る」。執筆は、私が大変高く評価している破格の天才的運動科学者高岡英夫氏です。
これは読まなきゃと早速購入。とてもおもしろく、納得できましたよ。
「幼児期からの達人教育 高岡英夫のゆるで創る!」
高岡氏によると、達人を創るには3つの条件が必要です。
1ゆるんで育つ
一つ目のテーマは「ゆるんで育つ」ということです。実は、いかに〝ゆるんでいるか〟ということが、本物の達人、天才の条件なのです。これに例外はありません。・・・子供を達人に育てるためには、いかにして子供を固めないで育てるか、ということに心を砕かなければなりません。
2中心装置を作る
物事と自分をきちんと関連付けて、物事の中心と自分の中心をピタッと向かい合わせる装置、これを「センターtoセンター」といいます。・・・そのためには一見面白味のないように見えるものに取り組まないと意味がありません。つまり面白味自体を自分の働きかけ、あるいは自分の徹底的な探索によって見つけ出すという営為のできるものでなければなりません。
3外内転換
達人になる人は、外側の情報として与えられ、外側の動きとしてなぞっているはずのものを、すべて内側の運動、それもできるだけ身体の内側の運動に転換していくのです。つまり「この外側の外化された情報は、内側で言ったら何だろう」ということを、顕在意識ではなく、潜在意識の中でいつも考えている人なのです。
詳細は本誌を読んでいただきたいのですが、私は一つ一つが納得できました。昨今流行の才能教育、幼児教育とはひと味違います。
そのための具体的な方法(マッサージなど)も出ていて、「よっしゃ」と早速小学生の息子に実験開始。こいつは昔からなかなか私以上にゆるんだ奴だったのですが、どうも小学校に入って学校教育の「成果」か固まり出したのが気になってました。
記事通りに背中や足裏をマッサージすると、「くすぐってえ」と身をよじるのでちゃんとやらせてくれないけれど、まだ心身は固まりきってはいないと見えて、まあよかった。
「明日から父ちゃん達人マッサージをするぞ」と宣言すると、「えー」と迷惑そうな顔。親の心子知らずだな。
しかし、この達人子育てには、リスクも伴います。心身がゆるみきって、自分のしたいことにいつまでも没頭し、教えられたことを自分なりに咀嚼するまでぼうっとして「心ここにあらず」といった表情でいる子は、周囲から「変な子供」といわれてしまうのです。
しかしそういう子供が実際に身近にいたらどうでしょう。たとえば監督が「集合!」といって選手を集めます。しかしその子はいつもふらふらしたままです。「お前らよく聞け」と監督が話し始めても、他の子はすぐに集まってピタッと並んで話を聞いているのに、その子だけはふらふら、ゆらゆらしていつまでたってもポジジョンが定まりません。当然、監督はイライラ、カリカリしてきます。
これはまるで、最近問題とされるADHD(注意欠陥多動症候群)みたいじゃないか。そう、以前から漠然と感じていたのですが、ADHD児の中には本当は「病気」として押さえ込まない方が良い子がいるのではないかな。
社会の管理や要請が高くなって、こんな子は生きにくくなっているのではないか、と考えることにもなりました。
とにかく、ちょっと変わった子育てをしたい親御さん、必読ですぞ(仕上がりは自己責任でね)。
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Comments
高岡さんの記事を読んで、自分の幼少時代を振り返ったら、
「なんだ、わたしのことではないか!」と思い上がってみました。
ただし、ひとつだけ違うところがあって、
集合しないでふらふらとしてはいるけど、
何かをやらせてみても「まったくできない」という点です。
・・・・・・達人の素質はなかったかorz
Posted by: ぺぺ | April 22, 2006 03:32 PM
ご無沙汰しています。我が家(建築中)の前の桜並木もようやく満開を迎え、県外からもカメラマンがたくさん来ています。
ゆるんで育てる。中心はぶれず、周りはゆるんでるってことでしょうか。周りまでキッチリしちゃおうとすると、中心までぶれてしまうってことでしょうか。読んでみたいですね~。
ADHD、病気ではないですね。才能だと思っています。今の世の中では、使いづらい才能ですけど・・・。
山梨アドラーの夕べ、またやりませう。
Posted by: 蕪の家 | April 22, 2006 05:05 PM
ぺぺさん
稽古お疲れでした。
あなたも確かに「その気」がありますね。是非達人に向かって邁進していってください(^^)。
私たちの武術はまさにこの3条件を兼ね備えたものだと改めて思いましたよ。
蕪の家さん
お元気ですか。
そうですね、周辺は可能な限りゆるめて体の深いところが使えるようにするのがミソみたいです。多くの人は、「周り」を固めることが「しっかりしている」ことだと誤解しているようなのです。教育現場で、それを完遂するのは大変なことでしょうけど・・・。
その子にとっての「中心」を大事にしてあげたいと思います。
こちらに降りてくるときには、またお会いしましょう。
Posted by: アド仙人 | April 23, 2006 01:31 AM