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April 04, 2007

「知能指数」

 知能指数、IQ。

 心理学が産んだたくさんの言葉の中でも、フロイトの「自我」やアドラーの「劣等感」に匹敵するかそれ以上に人口に膾炙し、我々の思考や行動に強い影響を与えたものではないでしょうか。

 IQが高い、低いという言葉に、実際に知能検査をきちんと受けたわけではなくても、やけに我々は敏感になりますよね。
 そのためIQを売り物にしたテレビ番組は作られ続け、脳トレブームの背景にIQ信仰があるのは間違いないでしょう。

「知能指数」佐藤達哉,講談社現代新書

 本書は本ブログでも何度か紹介した気鋭の心理学者による、知能指数と知能検査、その歴史と問題点についてわかりやすく解説したものです。
 心理学一般に関心のある方には良いのではないかと思います。

 本格的な知能検査を開発したとされるビネー(本書ではビネ)の本来の願い(知能にハンデのある子どもたちを正しく見分けて、彼らに適切な教育を与える)からどんどん離れていって、IQが一人歩きしていく様子がよくわかります。
 IQが優生思想や人種差別の根拠とされていく、ある意味で滑稽な姿が描かれます。それが誤用であることは今の我々にはよくわかりますね。
 それだけでなく、知能の算出自体に内在する問題も、筆者はフーコーの権力論から指摘するところは重要だと思いました。

 IQの算出を行政の側が行う時、それは単純な意味で権力である。・・・(中略)・・・だが、IQはそのような意味とはまた違った意味でも権力的である。・・・(中略)・・・・知能検査の一つ一つの項目に正答しようと誤答しようとそれは個人の自由である。自律は確保されている。しかし、どのように答えようとも、その子どもはある一定の方法で、知能を推量されてしまうのである。一見、個人に自由な行動が可能なようなシステムではあっても、結局のところ、限られた土俵の上での自由しか与えられていない。どのようにふるまっても、結局のところ「IQは~」という尺度で語られてしまう。
 このようなあり方こそ、権力の新しいあり方なのである。

 知能検査は近代主義の権化であり、そのまま権力の形であることは間違いないでしょう。その反動として、

 現在、日本で心理テストブームだが、ブームの背景には、学校でおこなわれる検査の結果を心理学者や教師が独占的に管理していることへの強烈なアンチ・テーゼが含まれているはずであるが、そのことに気づいている心理学者は少ない。

 と面白いことを言っています。
 もちろん著者は知能検査を否定しているわけではありません。モダニズムの権化としての知能検査の問題を指摘しビネーの言う原点に立ち戻って、子どもを総合的に理解する一助にすることにおいては、有用なのは間違いありません。
 私も同意見です。

 しかし、今のIQ信仰は困ったものだと内心思っていただけに、本書の指摘は意味のあることだと思います。

 毎日のように業務上知能検査をし、それこそ何千という子に「レッテル」を貼ってきた業の深い自分にとっては、良い刺激になりました。

 

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