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June 30, 2007

「武道の達人」

 物理学を極めた科学者が、空気投げなどの達人技の秘密を物理学的に解明した斯界話題の書。

「武道の達人」保江邦夫著、海鳴社

 著者がなかなかすごい。

 1951年岡山県生まれ。東北大学で天文学を、京都大学、名古屋大学で理論物理学・数理物理学を学ぶ。理学博士。学位取得後スイス・ジュネーブ大学理論物理学科に奉職。確率分布学の開拓者として知られる。武の神人とうたわれた故佐川幸義宗範の直伝を受けた大東流合気柔術を心の糧とし、真理探究のみを目指して生きている。現在、ノートルダム清心女子大学大学院人間複合科学専攻教授、専門学校禅林学園講師。

 正真正銘の物理学者であり、かつ本物の武道を学び続ける希有な人材です。
 理論物理学者が理論武道家になったといっています。

 本書は「青白き理系の、青白き理系による、青白き理系のための」本であり、「運動音痴で、筋肉のない、軟弱な身体しかない」人間が物理学の原理を使って達人技を身につけるための方法が解き明かされています。

 おもしろそうじゃない?

 私のような根っからの文系人間にも、大いに参考になりました。
 文章もユーモラスで、著者のねらい通り、物理学のおもしろさも再認識することができます。
 合気技の分解写真が各ページ下にあって、パラパラマンガになっているのも楽しい。

 解析の対象になったのは、柔道三船久蔵十段の空気投げ、沖縄の古武術「本部御殿手(もとぶうどんで)」の達人として知られる上原清吉宗家の拳、日本少林寺拳法山崎博通八段の乱取りの動き。最初の二人の存在は知っていましたが、山崎氏のことは初耳でした。中国武術と本当はあまり関係のない日本少林寺拳法にはあまり関心がなかったですからね。

 空気投げには静力学、上原清吉宗家の涼しい顔をしてずんずん進みながら相手をなぎ倒していく拳技は並進動力学、山崎八段のコマのように回転して相手を倒す動きは回転動力学を使って、実にわかりやすく解き明かしています。

 一見摩訶不思議な達人技が、物理学の一般法則から理解できる様は、科学的思考の訓練になります。

 この伝でいくと、私がやっている武術では、太極拳の推手のなかには静力学が、形意拳の破壊力には並進動力学が、八卦掌の鋭い動きには回転動力学が大きな成分となっているように考えることができます。

 しかし、完全理系人間の著者のすごいのはその先、けして今の科学のレベルでは解き明かせない達人技があることを堂々と認めているところ。

 大東流合気柔術の大名人、佐川幸義宗範の合気の技がまさにそれだと認めざるを得ないと断言しています。

 我が身を削る如く全精力を費やし、絶対に「物理法則によって解明する」道を探し出していく。そこにかける意気込みと時間の長さと執念深さにおいては、他の誰にも負けないという自負もある。その僕が「物理法則によって解明することができない」という背景には、理系人間の端くれとして磨き上げてきた己の理性を人前で屈服させるとう大きな屈辱を伴う痛みと、それでもなお公にしなければならないという責任の重大さがあることを理解してもらいたいのだ。

 心理学には昔から科学コンプレックスがあるので、行動科学とユング心理学を両端にして、科学主義と反科学主義が勢力争いをしています。だから、こう明確に腹をくくることはできない人が多いのですが、見習いたいと思います。

 武道をやる人は、このくらいの物理学的原理は理解するように努めましょう。

 

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