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September 13, 2007

「アドラーの思い出」

 いい本が出ました。

「アドラーの思い出」G・J・マナスター他著,柿内邦博他訳,創元

 アルフレッド・アドラーその人となりが、しみじみ伝わってきます。帯にもある「謙虚で、穏やかで、すぐれた教育者であった」アドラーにまつわる思い出が、お弟子さんや関係者たちの証言によって綴られた本です。

 アドラーは体系的な著作は残さなかったのですが、直接触れ合った人たちには後々までものすごい大きなインパクトを与えたことがよくわかります。

 気取らず、暖かく、子どもたちや患者と即座に打ち解けることができ、それでいて人の本質を鋭く見抜き、驚くべき成果を上げていく。
 そんなアドラーに当時の人たちは魅了されていきました。

 当時の精神科医や心理学者が精神分析学と同様に、アドラーの知見を独占しようとしても許さず、誰にでも開放し使えるようにしていった様子も伝わってきます。
 アドラーは常に弱者やマイノリティーの味方でした。

 本書の評判は聞いていたので、原書で読もうかと思っていたのですが、とてもよい訳でありがたく思いました。野田グループ、グッジョブ!です。

 いつくか引いてみましょう。

 アドラーは、すべての人とすべてのものを、変わらない鋭くもやさしい眼差しでじっと見つめていました。アドラーは、人が話す言葉の一つひとつを、吟味するかのように聴き入りました。アドラーの反応からは、彼が人の話していることのすべてを、またその背後のことまでもすべてを、理解していることがわかりました。

 アドラーには聴衆を自分の考えに引き込んでしまう力、一人ひとりにまるで自分に話しかけられているように感じさせる力、彼が話す人間の精神のはたらきについて興味を呼び起こす力、そして、一人ひとりの中に今まで眠っていた経験や感情を表面に引き出す力を持っていました。アドラーがたとえ話や事例から引き出す結論はいつも、人々が今まで気がつかなかったけれど、心のすぐそこに前からあったように感じられるものばかりでした。アドラーは複雑な感情のもつれについても状況の核心をつかみ、彼の提案する治療を理解しやすいように、図を使って明快に簡潔に説明することができました。アドラーはこのようにとても自然にやさしく人々を導くので、聴衆は、大人になってからの経験の中で葬り去っていた、小さな頃のもともとの自分に気がつくのでした。

 アドラー博士は次のように助言しました。「子どもの目で見るようになさい。子どもの耳で聞き、子どもの心で考えるようになさい」。子どもが問題を抱えているので、子どもは問題を起こすのです。「子どもにはどんな罰がよいでしょうか?」と尋ねられたとき、アドラーの答えはこうでした。「子どものためによい罰などありません」。

「患者が訴える症状を話題にしてはいけません。症状は、人生のわき道にそれた行動であるにすぎません。もし障害になっていることがらが治ったら、どんなふうに行動が違ってくるかを尋ねなさい。その答えが、もしその人に勇気があるならば、本当は生きてみたい人生なのです」
「子どもと一緒に何かするときには、いつでも子どもが一歩前に進むように挑戦させなさい」
「しなけらばならないことというのが肝要なのです。あなたがどう感じるかは問題じゃありません。感情は理由になりません」 

 アドラーと仲間との実際のやり取りの描写も多く、当時の雰囲気がよく伝わってきます。
 エイブラハム・マズローの証言も収められていますよ。

 臨床心理学の歴史を考える上に、貴重な書となるでしょう。

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