武道の真髄
おもしろいからさらに「合気道とラグビーを貫くもの」から引用します。
実は図書館から借りたものなので、覚えに記しておくという目的もあります。
武道の真髄とは何か、それは「強くなる」ことではなく、イヤなこと、「気持ちが悪いことに気づくこと」にあるといいます。
相変わらず卓見だなあと思いました。
内田「武道の才能って、煎じ詰めれば、一つしかないんです。それは『気持ちが悪い』ということがわかる、ということなんです。
人間も生物ですから、『気持ちが悪い』状態になると、何とかして『気持ちのいい状態』に戻りたい。この戻るときの動きって、ものすごく速いんです。自然な状態から不自然な状態に身体を持ってゆくときって、けっこう時間がかかりますでしょう。でも、その逆は一瞬なんですよ。
気持ちが悪い状態を解消しようという動きは最短距離、最短時間、最小エネルギー消費の動きになるんです。最短距離、最短時間、最小エネルギーで動く動きというのは武道的にいうと「最強・最速の動き」であるわけですけれど、それは「気持ちがいい原状」へ戻ろうとする運動なんです。
だから、武道的に大切なのは、「気持ちの悪さ」をとにかく早く感知することなんです。気持ちが悪いのに、それに気がつかないでぼおっとしている人間というのは武道的にはどうしようもないんです」
今の「気持ち悪さ」に気づいて、何とか気持ちよくなろうとする。太極拳や形意拳の型を教わるときに老師から、「これ、気持ちいいですね」といわれたのを思い出します。
中国の武術は、私がやっている道教系のものは特に基本的に現世利益的なので、生物的な気持ちよさをとことん追求しているところがあると思います。
このことは武道ですから、当然実戦にも生きてきます。
内田「立ち合いの場合でも、2人のうち『あ、気持ち悪い。早く気持ちのいい原状に戻りたい』という感覚を先に感じた方が先手を取ることになる。『なんとなくこの辺に刀が斬り込んで来そうな気がして、気持ち悪い」みたいな感じですね。だから、相手の刀がまだ鞘のなかにあるときに、もう『気持ちが悪いひと』と、実際に刃が身体の側まで来てはじめて『気持ちが悪くなるひと』との差は決定的なものになります」
そして、これまでスポーツ、武道界にしつこくはびこる根性主義に異議を唱えます。
内田「スポーツの根性主義はだから危険なんです。『気持ちが悪い』『厭だ』という生物の本性に根ざしている感覚を、身体的な苦痛に対して鈍感になることによって乗り切ろうとする。根性主義の練習法では、ほんのわずかな不快さの入力に対しても、『厭だな』という反応ができるような繊細な身体感受性は作りようがない」
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