講演2つ目・ICFを活用したADHD支援
養老先生のお話を聞いた後は、児童相談所に飛んで2つ目の講演・勉強会。
日本のADHD(注意欠陥多動症候群)の臨床において、先陣的役割を果たしてきた高山恵子氏(臨床心理士、薬剤師、NPO法人えじそんくらぶ代表)が来県され、お話をうかがえることとなりました。
著作も多いしご活躍の様子も聞いていましたが、私はお顔を見るのは初めてでした。
会場には仲間の心理臨床家、ケースワーカー、保健師、施設職員ら40名ほどがびっしり集まっていました。
テーマは「ICFを活用したADHD支援」
ICFとは、「国際生活機能分類 International Classification of Functioning Disability」といい、WHO(世界保健機構)が人の健康状態を表すための標準的な概念的・言語的枠組みとして開発したものです。
人の生活は、「健康状態」、「心身機能」、「身体構造」、「活動と参加」、「環境因子」、「個人因子」という要素(合計1424項目)が次の図のように相互に作用しながら成り立っているものとして捉え、これらの項目を用いて個々の状況を表します。
この考え方のもとでは、例えば、ADHDという診断を受けた子どもが学校の授業への取り組み(参加)がうまくできない場合、「この子はADHD(健康状態)だから・・・」と一方向的に判断するのではなく、「授業という『参加』がうまくいかないのは、どんな要素が影響し合っているのかな?」と多面的に捉えることができます。(当日資料より)
概念図は次のようなものです。
「問題」を理解するときに「心/身体」の中のみに注目するのではなく、それを取り巻く周囲との関係、システムのあり方を考慮することは、援助者としては当然といえますし、アドラー心理学は全体論ですから基本ですが、それを国際機関が概念化し、世界に良い意味での「グローバル・スタンダード」として流布しようとしているところに意味があるのでしょう。
私も昨年ヒューマン・ギルドで「子どもの発達と病理」について講義をしたときに、ICFの図を紹介したことがあります。
これからの常識でしょうね。
高山先生は、チャキチャキッとした感じの方で、とても歯切れがよく、ICFの枠組みを利用したご自身のADHDの臨床の考え方や様子を伝えてくれました。
内容はとても書ききれないので、資料に載せきれないエピソード的なところとして興味深かったのは、
・周知の通りADHDにはリタリンが効き、アメリカではアンフェタミン(麻薬の一種)が処方されている。逆に未診断のADHDは麻薬にはまりやすい(私注:それだけしっかりとした投薬治療が必要ということでしょう)。
・「バカ」と言われるより、「不良」と呼ばれた方がいいと考える子がいる。ADHDがぐ犯や非行に走りやすい要因となる(私注:よくわかります。プライドを大事にしてあげなくてはいけません)。
・アメリカにいたとき、保護者に診断を伝えるときに、医師、心理、理学療法士、スピーチ・セラピストの4人が同席面接をしたのがとても良かった。
・診断名を言わなくても、WISCⅢの結果だけは伝える。困り感を伝え合う、分かり合うために。アンバランスさの受容をする。クライエントに希望を与えるように(私注:これはいつも自分も心がけているところです)。
・集団に入れて伸びる子は、セルフモニタリング力がある。
・ADHDの特徴シングル・フォーカス(過集中について):「一つしかできない」から「一つならできる」へ。やるべきことの優先順位をつける。
・アメリカではアスペルガー症候群は、特別支援教育の対象ではない。「優秀でよかったね」という話。日本は察する文化なので、問題になる(私注:へーそうなんだ、と驚きと納得)。
・ICFには「本人の主観(何がしたいか)」「セルフエスティーム(自尊感情)」の項目がないのが不満。是非入れてほしい。
ADHDや発達障害に限りませんが、先生は、人生に影響を与え、人生目標の設定やモデルとなるカリスマティック・アダルトが必要だとおっしゃっていました。
高山先生自身、著書でも当日も表明していましたがADHDとLDであり、長年苦しみながらそこを突破され、今や大活躍をされているわけで、発達障害の人にとって、すごいカリスマティック・アダルトだと思いました。
ちなみに我々心理臨床家も、はっきりいって大抵がその類なので、我々にとってもモデルになりますね(^^)。
Comments
今日の講演2つ目も勉強になりました。
私も高山恵子さんの講演を聴いたことがありますが、「カリスマティック・アダルト」の命名に賛同します。
Posted by: しゅんけん | February 15, 2008 06:49 AM
私のカリスマティック・アダルトの一人であるしゅんけんさんから賛同を得られて心強く思いますです。
我々は共にADHD傾向が強いのですよね(笑)。
アドラーの名言「持っているものをどう使うか」が、この臨床をやっているとさらに重要に思えます。
Posted by: アド仙人 | February 15, 2008 11:50 PM
ADHDも「もっているもの」と言えますよね。
今の時代には使いにくい道具なのかも
しれませんが、使いこなしている人も少なくありませんね。しゅんけんさん仙人さんは使いこなしてる非常によいモデルだと思っています。
Posted by: 蕪 | March 08, 2008 08:09 PM
何をおっしゃる、蕪さんほどADHDを人生に活用している人はいないじゃないですか、あれとあれとあれでしょ。
ともあれ、あった方がいい概念なのか悩むところだけど、情報化、管理化が行き届いた息苦しい社会だから、あえてADHDと言挙げしておいた方がよいのでしょうね。
Posted by: アド仙人 | March 09, 2008 12:12 AM