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February 25, 2008

「武道vs.物理学」

 以前紹介した武道の達人技を物理学の基礎原理を用いて解明した好著「武道の達人」の著者、保江邦夫氏がその続編といえる本を出しました。

「武道vs.物理学」保江邦夫著,講談社+α新書

 著者は東北大学で天文学を、京都大学と名古屋大学で数理物理学を学び、現ノートルダム清心女子大学大学院教授の立派な物理学者です。

 前著と同じく、相撲の稽古テッポウの意味、柔道三船十段の空気投げの隠し技、空手の跳び蹴りと沖縄古武道の達人上原清吉翁の歩みに共通する原理、総合格闘技・グレイシー柔術の胴タックルとマウント返しなど、武道、格闘技の極意技が物理学的にどういう合理性に基づいているかが、わかりやすく、ユーモアに満ちた筆致で書かれています。

 高校の物理学の復習になりますし、もっぱら睡眠の時間だった私には再学習の機会にもなりました。

 物理学っておもしろいじゃん、って思えますよ。

 しかし著者の偉いのは、単に武道の技を「物理学的」に還元主義的に説けば全てわかるとはけして思っていないところ、むしろそれだけでは解けない「究極奥義の技」が存在すると断言し、自ら体現できるようになってしまい、さらに科学の目を向けたこと。

 本書の後半にそのプロセスが書かれていて、とてもおもしろい。

 著者が癌から復帰して、ぼろぼろの体でありながら、旧知の大東流合気柔術の継承者にして数学者、筑波大学教授の木村達雄氏に再会し、ふとしたことがきっかけで究極奥義「合気」を身につけてしまいます。

 そしてその実験に登場するのがなんと、泣く子も黙る極真会館会長の松井章圭氏、どっしり構えた松井氏に木村氏が合気をかけて、ヘロヘロ虚弱な体の著者がふっ飛ばしてしまいます。

 合気の威力にも驚いたけど、本書に「史上最強」を標榜する極真会館館長があっさり登場するところにもびっくりしました。
 武道関係者なら「えっ、出しちゃっていいの?」と驚くはずです。

 実は大東流佐川道場に、松井館長が稽古に行っていること、伝説の達人佐川幸義氏にあっさり破れたことを事情通は知っていました。だけど公にはしていなかったんじゃないかな。
 全国の空手マン、少年少女がガッカリするからね。

 それはともかく、著者は武道の究極奥義「合気」を科学的に解明するべく使命感に燃えて研究を開始します。
 そして、その端緒を電磁気学を応用することで、ついにつかみます。

 その結論は、

「精神的内面を『無の境地』にもっていくことで前頭運動野における意識的神経活動を小脳における無意識的神経活動に限りなく同調させた結果として神経に生じる電気変動を敵の筋肉組織につながる神経システムに伝え、それを微弱帯電させることで敵の神経システムの機能を停止させる(ブロックする)ために敵の筋肉組織が麻痺してしまう」
 という可能性が見出されたのだが、これを簡略に表現すれば、
「武道の究極奥義によって人間を人間たらしめている基本的なシステムの機能が停止させられたならば、人間の身体がマネキン人形や銅像のような単なる物体となる」
 というわけ。
 つまり、
「精神活動によって自分の神経システムに発生させた神経電気を微弱帯電として利用することで敵の神経システムの機能を停止させ筋肉組織に力が入らなくさせる」
 という驚愕の技が、武道の究極奥義なのかもしれない。

 これは合気という技だけでなく、否定するのが「科学的」だと思い込まされていた「気」の存在についても解明の端緒になるかもしれません。

 武道・格闘技関係者は必読です。

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