境界知能という難問
境界知能というのは、知能指数(IQ)70~84の範囲にあることをいいます。
普通知的障害(精神発達遅滞)はIQ70以下の人が該当するのですが、そこまで低くはなく、一応「正常」とされています。
正常だから普通に勉強したり扱えば問題はないだろう、と思われるかもしれません。
しかし、実際は学校や社会に適応するのがけっこう大変なのは、教育や臨床に携わっている人には実感されているのではないでしょうか。
著者もいいます。
さてこのグループ(境界知能:筆者注)については、これまであまり注目されなかった。しかし子どもの育ちに関わる臨床をしている者にとって、近年、境界知能は大きな問題となってきた。知的障害を持たない発達障害-軽度発達障害-が注目を集めているが、この中で境界知能が占める割合は非常に高い。特に学習障害を伴うグループについては、境界知能の児童が正常知能の児童よりも圧倒的に多いことが知られている。
さらに、そだちの問題である子ども虐待の児童において、正常知能を示すものはまれで、知能検査をしてみると、その大半が境界知能を呈する。さらにこの二つ、軽度発達障害および子ども虐待と密接に関係する青少年の大問題である少年非行の事例において、これまた正常知能を示す者はまれで、ことごとく境界知能を示す。非行の事例においては、学習の遅れを伴う者が多く、特に国語力の不足が内省力の不足に直結し、悩みを保持することができず非行に走りやすい傾向を生むという状況をしばしば認める。
これは私の経験でも全くその通りです。
知能検査をしてみて、IQ70からちょっと上、いや80台でも、予後とか考えるときに「これは難しいな」と思わずつぶやいてしまうことが何度となくあります(何が難しいかはケースによりますが)。
正常知能とはいっても学業は普通にやってても遅れがち、ちょっと家庭が不安定だったり他の発達障害的なリスクがあると途端に具合が悪くなります。
本人も言語的に思考したり、メタレベルの認知がうまくないので、一旦「問題児」になると修正がききにくくなってしまいます。
しかも問題はこの境界レベルの子どもはけしてごく少数派でなく、計算上は14%にもなる一大勢力なのです(統計の初歩を勉強した人はわかると思います)。
しかし、制度上「障害者」ではないので福祉的サービスは全くなく、下手をすると格差社会の下の階層に落ち込んだままという事態が無数にあると思います。
「知能で人を差別するとは何事だ」と怒る人もいるかもしれませんが、はっきりいってその人は今の社会がわかっていない。
おそらく昔だったら問題にされない知的レベルの人たちが、今の高度な情報処理が必要とされる社会の中で不適応に陥るリスクが高まっていると思います。
杉山先生も事例を取り上げて昔だったら「中卒後に良き職人、良き労働者として十分に適応していたはずである」といっています。
ここからは私見ですが、この境界知能の人たちは、社会の良い意味での底辺、土台を支えてくれていた層だと思うのです。
その多くが職人や建設、土木、港湾、運輸、農林水産関係などの世界に労働者として入っていて、文字通り社会を実質レベルで作ってくれていたと思います。
それに比べて情報や金融、さらに心理なんてやっている我々は実態のない虚業みたいなものですよ。
その大事な層がどんどん切り崩されている。
そして、情報リテラシーにどうしても弱い、ナイーブな人たちが多いのでプロパガンダに乗りやすい。
先の郵政選挙の時、「知能の低い人たちにターゲットを絞った」という電通ら広告代理店の「B層戦略」とはまさにこの層を中心に展開されたのかもしれません。代理店には心理学科出身者が多いですしね(知り合いも何人かいますよ)。
それにまんまとダマされ、小泉の「改革か抵抗勢力か!」という単純なフレーズに乗せられ、自らの首を絞めてしまったといえるでしょう。
本当は無駄な公共事業なんかないのではないか。
金をどんどん刷って回して、この人たちを食わせることが国の仕事ではないのか、私は最近そう思う。
橋でも道でも造ればいい。自然や景観に悪ければまた壊す工事をしてお金をあげればいい。
何もアメリカさんに渡す必要もない。
このおじさんたちに仕事を与え、ちゃんとお給料を持って家に帰ることができれば、「お父ちゃんありがとう」と父親の居場所もでき、家族は安心して暮らせ、生活保護も虐待もかなり減るでしょう。
また、IQというのはけして固定的なものではなく、実はこの境界知能の人たちは最も教育効果が上がりやすいのではないかと思います。杉山先生も
境界知能の子どもとは、いわば教師の力量がもっともよく表れる児童でもある。
とおっしゃってます。
社会や教育がもっと目を向けていく必要があります。
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全くその通りだと思います。
日常で臨床をやっていると、診断はつかないがなぜか社会に適応できない(とくにサラリーマンとしてやっていこうとすると破綻する)ひとたちがたくさんいます(少ないのではなく、現実にはたくさんいることが問題です)。
Posted by: 川田昌弥 | August 22, 2014 09:06 AM
川田様
大分前の記事ですけど、気づいてくださり、ありがとうございます。
この問題はもちろん今でも有効だと思います。
言語中心の心理臨床では限界があるところですね。
Posted by: アド仙人 | August 22, 2014 09:43 AM