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June 22, 2008

「やさしいベイトソン」

 前々回書いた、「ベイトソン・セミナー」の主催者の文化人類学者・野村直樹氏が、20世紀最大の思想家・グレゴリー・ベイトソンについて、これ以上ないというくらいやさしい本を書いてくれました。
 その名も

「やさしいベイトソン-コミュニケーション理論を学ぼう」金剛出版

 ベイトソンの著作は文体や文章自体は、他の思想家、例えばフランス現代思想の人たちに比べて大して難しくはないのに、なぜか「難解だ、難解だ」という声を聞きます。

 どうしてなんだろう。

 私にはポストモダンの思想家やフロイトなんかの方が、よっぽど難解でわけがわからない。
 むしろベイトソンは、気持ちのやさしさがそのまま誠実な書きっぷりにつながっているような思いすらあります。
 真っ当すぎて、わかりにくいのか。

「ベイトソンの書き物は、はじめ読んだときには、頭がおかしくなるほど何のことかわからない。しかし、そのうちに、頭がおかしくなるほど鮮明に理解されてくる」
 という言葉があります。

 確かにベイトソンを読むと何か知識が貯まるという感覚は乏しくて、有名なダブルバインドとか概念や理論の一部を取り出して要約してもあまり意味はないと思います。

 ただ、物事を実体ではなく、関係として、関係のネットワークの中の点として見ることができ、世界観が気がついたら変わっている、そしてこれまでの物事の理解のしかた、表現の仕方のどこかに違和感を感じ、何か問いを発したくなる、そんな作用があります。

 ベイトソンは「精神の生態学」で、自分の娘との対話という形で、その問いの扱い方を書いています。

娘「パパ、本能って、何なのかしら?」
父「本能とはね、一つの説明原理さ」
娘「何を説明するもの?」
父「何もかもだ。説明してもらいたいことなら何でも説明してくれる」
娘「うそでしょう?重力は説明してくれないわ」
父「それはだね、だれも、”本能”で重力を説明したくないからだ。その気にさえなれば、立派に説明してしまうよ。月は距離の二乗に反比例する力で、物体を引きつける本能がある、とかね」
娘「そんなの、ナンセンスじゃない」
父「そうさ、だが本能なんてこと言い出したのはお前だぞ。パパじゃない」
娘「いいわ。でも、じゃあ、重力は何で説明したらいいの?」
父「重力を説明するものか。それはね、ないんだ。なぜなら重力が一つの説明原理だからだよ」
娘「ふーん」

 とても面白い会話ですね。
 本書ではベイトソンが思索でよく使った父娘の会話(メタローグといいます)に習ってか、ドン・キホーテとサンチョ・パンサの会話という形で、ベイトソンについて語り合うことで、ベイトソンの世界を解き明かそうとしています。

 題名の通り、ベイトソンがやさしいと思える格好の入門書です。

 

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