「学ぶ意欲の心理学」
博覧強記で知られる評論家・立花隆氏の趣味は「勉強」らしいですが、私も勉強が大好きです。立花氏には遠く及びませんが、できるだけ広範な分野に関心を持ち、たくさんの知識や技術を身につけたいと思っています。
でも世の中には、勉強の嫌いな人も多いらしいです。というか、臨床的に出会う人たち、子どもやクライエントさんたちの多くが、勉強というものに滅茶苦茶ディスカレッジ(勇気くじき)されていて、「本を見るのもイヤ」と感じていたり、「なんの役に立つんだ!」と開き直って主張します。
「勉強しないなんて、なんともったいない」と思いつつ、彼らの境遇や生い立ちを聞くと仕方ない部分もあると納得はできます。
しかし、やはり勉強はしなくてはならないし、本来とても楽しいものです。
実際勉強が嫌いという子どもたちだって、ゲーム・コントローラーの複雑な操作やロールプレイゲームの世界観、車やバイクの構造の理解などの「学習」はお手のものです。
誰だって「学ぶ意欲」はあるはずです。
それを心理学的には動機づけといいますが、自分を、人を動機づけるにはどうすればいいか、そもそも動機づけとはどのようなことかを専門的に、わかりやすく解説してくれている本があります。
教育心理学、学習心理学では学ぶ意欲をどのように捉えているのか、どのような考え方、態度でそれを育てていけばよいのかを丁寧に教えてくれる良書です。
前々記の「パーソナリティー障害」と同じく、ヒューマン・ギルドで薦めていたので買ったのでした。
本書にはどちらかというと、「学ぶこと自体が楽しい」といったある行動を自己目的に求める内発的動機づけ重視の著者と、外から与えられる報酬のための手段として学ぶ外発的動機づけを重視する教育評論家で精神分析学者の和田秀樹氏や、教育社会学者の苅谷剛彦氏との対論が収められていて、教育心理学とはやや異なる立場との対話を通して立体的に動機づけについてわかるるようになっています。
内容をかいつまんで紹介したいけれど、今自分に時間的にその余裕がないので、是非直接読んで下さいね。
ちなみに著者は、何が何でも内発的動機づけでいくべきだなんていっているわけではなく、報酬志向や実用志向といった外発的動機づけも大事だし、そこから内発的動機づけへと向かうことを目指す、バランスの取れた見方を重視しています。
「動機づけの二要因モデル」と著者は名づけていますが、なかなか役に立ちそうです。
教師はもちろん、スポーツや武道の指導者とか研修講師、組織の管理職とか、何らかの学習活動に携わっている人には大いに参考になると思います。
Comments
今回も是非読んでみます。
「内的動機づけ」と「外的動機づけ」の両面があるのが面白いですね。片面だけの場合もあれば、両面が因果関係的に融合されていく場合もあるのだと思います。相乗効果が生まれると、モチベーションとしては最善のレベルですね。
大学に入学すると勉強に不熱心になる学生が多いのは、昔も今もあまり変わらないようです。一般企業就職を目的にする学生がほとんどだからかも知れません。「会社に入ったら、大学の学問は役に立たないぞ」という情報は、たいていの学生が耳に入れています。
僕は、就職の斡旋所みたいになってしまっている日本の大学の体質を批判して来ました。実学だけでなく、哲学・文学・芸術などの虚学も身につけた人たちが、政界・経済界のリーダーや各企業の管理職者になってくれれば、日本も文化国家として世界に尊敬されると思います。そういうことを、生徒たちに語っています。
僕は中学高校時代を卓球とギターと神経症で過ごしてしまったので、そこから出た激しい劣等感から、大学入学後に勉強するようになりました。「内発的動機づけ」は、まさに劣等感(プラス後悔)です。
「外在的動機づけ」は社会進出とか報酬といった健全なものではありませんでした。「人望を得たい。女性にもてたい」といった、少し幼稚で神経症的(人間依存症的)な動機が強かったです。
現在では、「勉強すること&学ぶこと」は、食べること・寝ること・風呂に入ること・人と話すことなどと等価レベルになっています。生理的欲求に近いのだと思います。
明日は神楽坂のヒューマンギルドで、11:00~1:00までゼミナールに参加します。僕のマイミクさん(梅さん)が自己開示します。僕は9:30からの自主勉強会(アドラー書の読書会)から参加します。
勉学アディクション症かもしれませんが、アルコールやギャンブルよりははるかにマシです。
書き出したら、またしても長々と失礼しました。
とても役に立つ有り難い記事に、感謝しております。
Posted by: しんぷる | July 19, 2009 09:41 PM
しんぷるさん
僕も20日のヒューマン・ギルドに行きますよ。カウンセリング演習ですけど。
内発的動機づけと劣等感の補償の関係は、興味深いテーマになりそうですね。確かにそういう面はあるかもしれませんね。
外発的動機づけと神経症的傾向も、ハッとするご指摘でした。
神経症あるいは勇気くじきをされている状況なら外発から始めるしかないかもしれません。
勉強アディクションになれたのなら、内発の達人完成ということですね。
Posted by: アド仙人 | July 20, 2009 01:11 AM
コメントの場をお借りしてお便りさせていただきます。
そうだったんですか。taichiさんは2:00からの演習で講師をされたのですね。
僕は午後から別の用事があり、ゼミナール終了後すぐに神楽坂の駅に向かいました。
自主勉強会で司会を担当してくれているSさん(山梨で小学校の先生をされてる男性)から、taichiさん(=アド仙人さん)のご活躍ぶりを聞きました。
Sさんも感覚と分析理解力の鋭いかたですね。
僕は、ヒューマンギルドもアドラー心理学もすっかり気に入りました。
お会いできる日を楽しみにしております。
健康に気をつけてご活躍ください。
しんぷるより
(追記:このメールへのレスはけっこうです。)
Posted by: しんぷる | July 22, 2009 12:50 AM
おっと、しんぷるさん・・・朝の学習会にご参加頂きありがとうございました。Sさんこと蕪です^^おかげで、朝から充実した学習会になりました。 「学ぶ意欲の心理学」は、ぼくも読みました。どちらかと言えば内発志向の私でしたが、アド仙人さんとじっくりお話して、外発も充分勇気づけになりうると気づかされたこともありましたし、この本で内発を志向しつつ、外発も否定しない、という考えには納得でした。この本ではあまり触れられていなかったのですが、日本の子どもの多くが、「恐怖による動機づけ」で勇気をくじかれている結果がPISAなのかなぁと思っています。「今勉強しておかないと大変なことになるよ・・・」これだけはやっちゃぁいけない・・・。
Posted by: 蕪 | July 26, 2009 10:48 PM