« ミネソタのアドレリアン | Main | ターミナルケアとセラピスト »

August 17, 2010

「この世とあの世の風通し」

 お盆が終わりましたが、この時期は終戦や日航機墜落事故など、過去の多くの死者を想う時期です。

 心の深層、生と死について深く、広く感じてみたいそんな時に、伝説の精神科医として一部の人に知られていた加藤清先生「この世とあの世の風通し-精神科医 加藤清は語る」(春秋社)がお勧めです。

 といっても私も加藤先生についてよく存じ上げているわけではありません。6月に北陸先端科学技術大学院大学に講義に行ったときに、旧知の藤波准教授から教えていただいたのです。

 本書は対談によって加藤先生の人生(出版時77歳)をたどるものなのですが、その内容、幅がすごい。

 もともと霊感、直観が強い体質だったらしい加藤先生は、戦時中の京都大学の医学部で古き良き時代の教育を受けただけでなく、当時世界最高峰の哲学者の西谷啓治氏や久松真一氏の薫陶も受け、禅やカトリックなど宗教探求に邁進します。
 さらにメスカリンやLSDの体験研究、気功など東洋医学の探究など洋の東西を問わず、精神の科学を身を持って体験し、それを臨床に生かしていくのは圧巻です。
 湯川秀樹氏とのエピソードもあります。

 中でも、この世界によくある霊能者と医者が反目し合うのではなく、協同して患者に関わる様子は面白かった。

 でも本書はけして難しくなく、加藤先生の語り口はあくまで軽妙で、臨床家としての優しさに満ちています。

 対談相手の上野圭一氏はいいます。

 加藤先生は第二次世界大戦のさなかに「精神医学は臨床医学の基礎である」というまことに高い見識のもとにその道に入られ、以来臨床の場を離れることなく、一筋に人間の精神の深奥を探求しつづけてこられた。その探求は精神医学、脳生理学、精神薬理学をはじめとする科学の領域はもちろん、カトリック、禅、道教、東洋医学、気功、ヨーガ、密教といった実践をともなう諸領域を広く覆い尽くしてあますところがない。

 さらに、精神医学についてこんな考えをお持ちのようです。

 戦後、アメリカから精神身体医学(心身医学)が入ってきたとき、即座に「これは二元論だ」と喝破され、国際学会を舞台に一元論的な「気が入った精神医学」を提唱された加藤先生は、ことばの真の意味でのホリスティック医学やトランスパーソナル心理学の構築を日本から世界に呼びかけた最初の人であった。「気が入った」は単に「気合いが入った」「一心に打ち込む」という意味ではなく、道教医学の「精」「気」「神」三段階説を引き合い煮出して、「気」が抜けた「精・神」だけの還元主義的な精神医学を揶揄する加藤先生一流のユーモアでもあることはいうまでもない。

 不覚にもこんなにステキで、おもしろく、破格というか、すごい精神科医がいたことを知らなかったとは。
 先生は関西圏で活躍していた人で、直接交わる機会がなかったというのもあるかもしれないけど、残念でした。

 武術と臨床心理学を考察したい私にとって、大いに啓発され、また若き日にトランスパーソナル心理学に惹かれていた自分を思い起こさせていただいた良書でした。

|

« ミネソタのアドレリアン | Main | ターミナルケアとセラピスト »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 「この世とあの世の風通し」:

« ミネソタのアドレリアン | Main | ターミナルケアとセラピスト »