「真田幸村の生涯」
今も昔も戦国一の人気者、大スターの真田幸村。
私も子どもの頃から大好きです。
最近はテレビゲームの「戦国無双」や歴史ブームもあって、さらに幸村人気に拍車がかかっています。私も息子がやっていた「戦国無双」を取り上げて、幸村を選択してはよく遊んでました。もちろん、家康をこの手で討ち取り、幸村の無念の思いを晴らすためです。
そんな私が、秋月達郎著「真田幸村の生涯」PHP研究所をたまたま手に取ったら意外にもというのも著者に失礼ですが、とても面白かったので紹介します。
タイトルからは、真田幸村1人の活躍を描く歴史エンタメ小説かと思いきや、どうもそれは売るための戦略のようで、幸隆・昌幸・幸村と続く真田三代の歴史を語ろうとするもののようです。
けっこう緻密に取材・調査された内容を、脚色された小説のストーリーと絡めながら説明していて、著者の真田観がわかりやすく、おもしろく説かれています。
その基本の視点は、天才軍略家・真田幸村がなぜ生まれたのか、それはけして才能ある1人がポッと出たわけではなく、「真田家の必然性」が生んだものであり、そのプロセスがあるはずだというところにあります。
これは家族の歴史からクライエントを理解し援助しようとする家族療法を実践する私にとっては、とても納得のいく話でした。
幸村の生涯は、
-大阪の陣のおりに真田丸で攻防を繰り広げ、家康の本陣めがけて吶喊した。
というただ一点に尽きる。
右の情景よりほかに幸村の生涯は考えられないし、逆にいえば、この燦然と輝かんばかりの映像を後世にまで遺すためだけに幸村の生涯があったということになるだろう。しかし、幸村がいかに衆に優れた武将であろうとも、あるときいきなり真田丸が築き上げられるはずもないし、突然、炎のごとく吶喊できるはずもない。その凝縮され、結晶化されていった最後の瞬間にいたるまでに、幸村は幸村なりにさまざまなことを学び、感じ、見極め、鍛錬してきた。
そう、幸村は、ひとつひとつ、階段を上るようにして会得している。
本書で特に丁寧に描いているのは幸村の父・真田昌幸。
多くの歴史物では、昌幸の場合、前半生はさっと解説されて済ませ、武田滅亡後の信州上田辺りの小大名になって徳川家康軍と上田城で一戦を交える頃から描かれることが多いようです。
しかし本書では、昌幸は人格形成期の少年時代に武田信玄の側近くに仕えたことがいかに大きなことだったかを述べています。
昌幸は7歳の時に武田信玄の元に人質に出されますが、信玄はすぐに昌幸の才能を見抜き、ただの人質ではなく、奥近習という側近に取り立て、大事に育て上げます。
そして、やがて信玄から「我が眼であり、耳である」とまで言われ絶大な信頼を得、武田家の縁戚で名門とされていた武藤家に養子に入ります。
長篠の戦いで真田家を継いでいた兄が死んだので、昌幸はやむなく武藤家を離れ、真田家を継ぐことになったのです。
ほとんどの真田ものの小説などでは、その辺がスルーされていますが、本書では昌幸にとって武藤家に入ったことはとても大きな意味があったと見ています。
父・幸隆は信濃先方衆として信玄に重用されながらも、それまではあくまで「外様」であったものを、昌幸は武田家の「親類衆」に入ることを許されたことを意味するからです。
さらになぜ武藤家なのかというと、そこは武田の諜報を担っていた機関であったと著者は見ていて(その理由は本書で考察されていますが)、昌幸がいかに信玄に期待されていたかを示していると考えられます。
そしてそのような経緯から、幸村も当然甲斐の国に生まれ育ち、武田家と真田家の「文化」を吸収していきます。
幸村が真田の地・信州上田に入るのは、武田家滅亡辺りになってからでしょう。
だから、昌幸も幸村も、実は本質的には「山梨県人」だったのですね(笑)。
ああ、うれしいな。
幸村の吶喊は、六文銭への憧憬と、赤備えの系譜と、あぶれものの血脈とが合わさったものといっていい。
また、真田丸の築城は武田流の馬出しを最後の新府城において見事に作り上げた昌幸の作事術を受け継いだ故のものといえるし、そこで展開された攻防は信玄の遺言と信玄を信奉する家康が長篠において展開したものをさらに発展させて空濠と十字砲火による凄まじい戦法として現出したものと考えていい。つまり、幸村は人生の象徴として吶喊を選択したが、そこにいたるには祖父の生涯と父の生涯を踏まえていることが絶対の条件だった。また祖父が気を許し合い、かつ父を養った武田信玄という武将の存在も不可欠だった。そうした三人の武将の存在が、幸村の突撃をうながしたといえるし、幸村の生涯をひきだしたといえるだろう。
真田ファンには是非読んでほしい一冊です。
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