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November 04, 2010

「仏教とアドラー心理学」

 またまた興味深い本が出ています。

 仏教の思想とアドラー心理学を統合して、新しい心の科学を作り上げようという意欲作です。

岡野守也著「仏教とアドラー心理学 自我から覚りへ」佼成出版社

 両者の結節点となるのは共同体感覚というキーワード。

 共同体感覚とは、広い意味での社会性で、他者への共感的関心から始まり、地域、社会へと広がっていく可能性を持つ心理的態度です。
 アドラー心理学では、「共同体に対する所属感、共感、信頼感、貢献感を総称した感覚・感情」であり、「精神的な健康のバロメーター」と考えています。

 アドラー後期の最重要概念で、その特徴は、他の多くの臨床心理学がいわゆる社会性の発達、社会適応を治療の目標に据えているのに対して、真の心の健康はそれだけでは足りず、単に他者や社会への関心に留まるものではなく、人類、自然の動植物、地球全体、そして宇宙にまで広がるようなものであるとしているところにあります。

 つまり自我意識を越えた広がりのある意識状態を積極的に認めており、トランスパーソナル心理学の探究する領域でもあり、仏教で説かれてきた縁起に通じるところでもあります

 本書では、その共同体感覚を折り返し点にして、人の心の発達をとらえるべきだと主張しています。

 具体的には、アドラー心理学は最良の自我確立の方法・考え方であり、それ以上の心の発達にはアドラーだけでなく西洋の心理学諸派は不十分なので、仏教のアプローチが必要だとしています。

 前半はアドラー心理学の全体像の紹介とそれが仏教思想とどう重なるかをわかりやすく教えてくれています。
 アドラー心理学を知らない読者にも配慮して、とてもうまくまとめられていて、そのまま入門書にしてもいいくらいです。

 後半は著者の独壇場である「仏教心理学」の紹介、取り分け大乗仏教の根本思想である唯識が説明されています。

 唯識が「仏教の深層心理学」と言われていることは耳にしていましたが、私はこれまで関心はあっても特に触れることはありませんでした。
 今回初めて本書で、唯識思想について学ぶことができ、私としてはとてもありがたかったです。
 唯識は人間の心の構造について、とても大事なことを教えてくれるものだとわかり、やはり歴史に残っただけあり、価値のあるものだと感じました。

 仏教と臨床心理学というと、昨今は上座部仏教のヴィパッサナ瞑想を取り入れた認知行動療法の「マインドフルネス」というアプローチが注目されています。
 しかしこちらはどちらかというと思想運動というより、治療技法の趣が強いと思います。少なくともうつの治療は目指していても、悟りは求めていないようです。患者さんがうっかり悟っちゃったらどうするんでしょう(笑)。

 実はアドラー心理学の世界でも以前から仏教や東洋思想を取り入れる傾向はありました。
 私の師の岩井俊憲先生も仏教に造詣が深い方ですし、日本にアドラー心理学を紹介した野田俊作氏は多分唯識的なのは嫌いで、空の思想であるナーガールジュナの中観派の系統に入れ込んでいたようでした。
 また、北米のアドラー派の動きを見ても、仏教瞑想や東洋的心身技法を取り入れたワークショップが熱心に開催されているようです。先日ニューズレターで案内が来ました。行けるわけないけど。
 元々、仏教関係者、瞑想実践者のアドレリアンは多いのです。

 ちなみにアドラー派ではないけれど、私が高く評価する苫米地英人氏も中国仏教系ではなく、原始仏教系に関心を寄せているようです。
 文献学に依拠したり、理論性を極めたいタイプの人は中観派がお好きな傾向があるようです。

 私自身は参禅もヴィパッサナ瞑想も経験はあるけど、どれも中途半端でちゃんとは知らないので、仏教については適当な印象しかありませんが、これからも体験談や私見をここで話したいと思っています。

 いずれにしても、仏教とアドラー心理学を一緒に学べる、一冊で二度美味しい本なのです。

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