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January 07, 2011

動きは言葉にできない

 再び韓氏意拳の解説書「FLOW」より、印象的な箇所を引用します。

 武術の高度な動きの時に生じていること、その感覚をどのように表現して伝えるかはちょっと考えても大変困難な大問題です。

 拳法や空手、ボクシングをやった経験のある人は、何の力感もなくふっと何気なく出した腕に相手が吹っ飛んだり倒れたりした経験があるかもしれません。
 しかし大抵はそういう体験があっても、「えっ、何で?」「ラッキーパンチ」「偶然だよ」といった感想ですませてしまうことが多いかもしれませんが、本書はそれでは大切なものを見落としてしまうだろうと警告しています。
 そのために体感に基づいて発明されたのが「気」なのかもしれません。それでもかなり曖昧さは残り、気を語り出すと常に肯定、否定論者の間で何か「論争」が起こります。

 これは、運動感覚を言語で記述するときにどうしても避けられない限界かもしれません。

 また「心」を記述しようとする心理学にも通じる限界でもあります。
 そういうとき心理学では、操作的に定義できる概念を作り、できればそれを数値化、可視化できるように努め、そこから心の地図=モデル・理論を作ることを目指してきました。心理学流派、学界・学会とは、学者同士でその地図作りの優劣を争うゲームといえるかもしれません。
 しかしそれは厳密にいうと心を理解したのではなく、心を理解するための「略地図」を作ったに過ぎないともいえます。

  言葉とは、この文章のように「上から下へ配列された文字を追う」といった単線的で不可逆の時間の流れの中でしか意味を捕まえることができない。映像のように一度に、また同時にバラバラのことを把握することができない。

 感覚は「いろいろなものを感じ続けている」というような、移ろう状態を把握できはしても、雲の動きを言葉で正確に表せないのと同じで、感じていることは抜き出せないし、対象化もできない。p59

 感じ続けている状態というのは、自分を包む静けさであったり、人の呼吸する音であったり、いま飲んでいるコーヒーの味であったりと、そのとき同時にいろんな感覚が多面的、立体的に立ち上がり続けている状態を指している。そうした三次元的な感覚の運動を二次元の配列である言葉に表すことは、本当はできない。p60

 だから韓氏意拳では、教授場面で様々な矛盾した言葉が与えられます。それはまるで禅寺の修行場面のようです。

 それでも言葉で伝えないと教伝できないところもある。だから韓氏意拳では、どういうふうに運動を言葉で表すかというと、たとえば光岡師は「形は大事ではない」と言いつつ、「形は大事だ」と言う。「ただやらないといけない」とする一方で、同時に「ただやってはいけない」と言う。p60

「運動という立体的なことを立体的に語ろうとしているから、抽象的で矛盾した言い方にならざるを得ない」と言語の論理的一貫性の平板さ、限界を認識することの重要性を主張します。

 矛盾とは論理の破綻だと考えられがちだ。そもそも論理に整合性があるのは、折り合いのつかないことを排除しているから成立しているわけで、だから矛盾とは論理が排除した余白を取り込んだ「包括的な論理」のことだ。p61

 これは流派や武道の種類を問わず、とても本質的な考え方のように思います。

 また細分化・専門化し、外形的なエビデンスを求めることに全精力を上げる最先端の臨床心理学の本質的限界を示唆し、アドラー心理学のような全体論的志向を持つ心理学のようなクラシックな心理学の現代における存在意義がそこにあると思われます。

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Comments

昨年、心理臨床学会のシンポジウムの際にご挨拶差し上げた一意拳修行者(+心理臨床者)です。
意拳をとりあげていただいて本当に嬉しく思っております。従前より、意拳の本質は「矛盾の統合」であり、心理臨床と本質的に近いものを感じておりました。また、先生が強調されておられた「脱力」による武術と心理臨床の接点についても、本質を突いたものだと思っていたところです。
今後もブログを拝見させていただき、また学会等でお目にかかると思いますが、ご指導の程、よろしくお願いいたします。

Posted by: たんとう | January 11, 2011 at 12:16 AM

 たんとうさん

 お久しぶりです!

 門外漢でこのように書いてしまって汗顔の至りです。
 まあ、親戚門派ですから許して下さい。

 意拳には大きな可能性を感じています。
 「矛盾の統合」とは良いですね。是非、これからもたんとうさんのご意見をうかがいたく思います。

 今後ともよろしくお願いします。

Posted by: アド仙人 | January 11, 2011 at 12:36 AM

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