気功で使う筋肉
武道・古武術の月刊誌「秘伝 5月号」(BABジャパン)に、興味深い特集がありました。
「特集 達人を測定する! 筋電測定でわかる、武術の驚愕メカニズム」というもので、武道のいろいろな動き、格好の時にどこの筋肉がどのように働いているか、筋電測定機で測定をするという実験の内容です。
空手、太極拳、合気道、古流剣術の直心影流の各名人が被験者になっていました。
空手は「消える動き」で有名な柳川昌弘先生でした。柳川先生の「浮身」「沈身」の結果も興味深かったけど、私にとって特に興味深かったのは、「太極拳身法の秘密」として楊式太極拳の深井信悟先生の測定結果でした。
深井氏はいわゆる健康太極拳ではなく、バリバリの武闘派志向の太極拳家だそうです。その点私と方向性が同じなのでうれしいです。
同記事では、膝を曲げて軽く中腰になる気功のポーズ(站とう功、立禅)時の筋電測定をしています。中国武術の基本トレーニング法で、一般に「足腰を鍛える」「気を鍛える、発生させる」などと説明されていますが、筋肉レベルはどのようになっているのでしょうか?
ただ軽く中腰になってポーズだけ真似ているだけの「正しくない姿勢」では、足は大腿直筋(腿前)がわずかに稼動しているだけでした。普通の人がたまに走ったり運動したりすると痛くなるのは太股の前の部分が働きすぎたからですね。
しかし、「正しい姿勢」、ここでは「尾呂中正(びりょちゅうせい)」と呼ばれる仙骨を立て、お尻を中に入れるような姿勢を取った途端、太股前の筋肉は働かなくなり、「半腱様筋(腿裏)」の測定値が大きく動き出したのです。
太股の裏の筋肉はハムストリングともいわれ、前へ進む力、「前方力」を生む場所として注目されているところです。
高岡英夫先生は「アクセル筋」とここの部位を呼んでいます。
対する太股前の筋肉は「ブレーキ筋」と呼ばれ、二流の選手は足を動かしてもアクセル筋があまり働かず、ブレーキ筋を無理して使っていると言われていますね。だから足の前面が大きく膨らんでいます。普通の人はそれを見て、「おお、すごい筋肉だ」と感心してしまうのです。
しかし、スポーツや武道をしていて、太股の前面が筋肉痛になるのはまだまだで、一流は裏側がなるといいます。
イチローも好不調のバロメーターをそこにおいていると聞いたことがあります。
気功独特の中腰の姿勢は、一見するとただ立っているだけに何のトレーニングになるのか全くわからないもので、これまでも「あんなもの強くなるには何の関係もない!」と多くの人から誤解されてきました。
しかし太極拳からすると、戦うときに必須の「前へ進む力」を養うには必要なメニューといえます。
ではなんで、じっと立つ気功の姿勢でいるかというと、前へ進むだけでなく、「常に稼動状態にある」ためだと、今回の被験者である深井氏は言います。
「蓄勁というんですけど、要するにスタンバイ状態にもっていく事ですね。一発バーンと打ってそれがはずれたらまた時間をかけて蓄勁しなくきゃならない、としたらそれは実戦上危険な事なんです。だから太極拳では常に蓄勁され常に発勁状態にあることを目指します。防御にしても、相手の攻撃を捌くんじゃなくて、勁力を出し続けている事が防御なんです。相手とぶつかった時に、その相手が何も出来ないっていうのが本当の防御です」
よく達人の武勇伝に、「敵が触れた瞬間に吹っ飛ばされた」というエピソードがあって、私の流派の先生たちにもその話は枚挙にいとまがないのですが、なかなか信じてもらえません。
私の先生も、型よりも実戦(組み手、試合)よりも、これ(站トウ、立禅)が大事なんだと、長時間取り組むことを勧めていました。
中国武術の鍛錬法の意義の一端がわかって、納得がいきました。
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