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August 22, 2011

武道教育はできるのか?

 現在発売中の月刊「秘伝」(BABジャパン)の特集は「武道教育とは何か?」で、平成24年度から義務教育で必修化されるという武道教育について、様々な立場の武道関係者の意見をうかがうという内容でした。

 今回の中教審の報告では、武道によって「我が国固有の伝統と文化により一層触れることができるように指導のあり方を改善する」とうたっていて、実際の必修化にあたっては文部科学省は、柔道、剣道、相撲の三種目だけを正式に認めていて、その他の武道(空手や合気道、少林寺拳法など)は地域などの諸条件によって副次的に採用が認められるものの、この三種目に置き換えて行うことはできないそうです。
 つまり、「柔道の一環」として、空手や合気道を行うことはできるかもしれない、ということのようです。

 もちろん私のやっている太極拳、中国武術は「外来物」(下手すると「敵性物」)なので、ダメということでしょう。
 なんといっても安倍内閣が発起人みたいなものだからね。
 太極拳やテコンドーなんか入れたら、「愛国派」が黙ってないでしょ。

 別に日本の教育だから日本武道だけでもいいけど、実際の教育現場でうまく機能するのか、ちゃんと「正しい武道の姿」が伝わるのか、単に粗暴ないじめ行為を増やすだけではないのか、指導者のレベルはどうなのか、事故が起きたらどうするのか(実際本誌によると、これまでの学校の柔道で、過去27年で110人を超える子どもが亡くなっているという衝撃的な数字が出されています)、などなど、武道の良い面、悪い面、難しい面をよく知っている人であればあるほど、疑問や心配がわき出てくるでしょう。

 本特集では、武道の必修化に対する推進派、否定派、疑問派の方々が登場して、いろいろな考えが出されていて、多少は教育界の周辺にいる者としては、興味深かったです。それぞれの言い分はわからないでもなかったですね。
 私も、多少触れるだけでも、その中の何人かの子どもが武道に関心を持ってくれたらいいな、みたいな気分はありますし。

 しかし、それらの記事の中で最も本質的なところから批判しているのがおなじみの内田樹先生。

 これまで国、政府、行政がなんら武道や日本の伝統に深い理解を示してこなかったのに、むしろ、積極的に「伝統との断絶」を推進してきた立場なのに、それを糊塗して「伝統の教育」を言い出していることの欺瞞性を突いています。
 武道関係者は襟を正して読むべきです。

 私は武道必修化を提言したこの委員たちが「伝統文化」という言葉で何を言おうとしているのか、その意味がよくわからない。現在行われている剣道や柔道のような競技武道は近代スポーツであって、伝統文化とはほとんど関係がない。伝統文化とはほとんど関係がないものを必修化することで、どうやって伝統文化を尊重させることができるのか、その理路を教育行政官は説明する義務があると私は思う。・・・・・(中略)・・・・・

 私たちが前提としてわきまえておくべきことは、日本における近代武道の歴史はそのまま「伝統文化との断絶」の痛ましい歴史だったということである。私たち日本人は恥と悲しみの感覚抜きには明治維新以後150年の武道の歴史について回想することができない。

 明治維新、敗戦・GHQの占領、その後今に至るアメリカの属国化により、日本人は特に武道において根底的な変容を余儀なくされてしまいました。端的にそれは内田先生がいうようにスポーツ化です。
 それが時代の必然であったという仕方ない面でもあったことは、先生も認めています。

 しかし歴史の必然上そうせざるを得なかったことを含めて、日本民族の「恥と悲しみの感覚」もなく、何が愛国教育だ、ということでしょう。

 結局そんな武道教育の結果出てくるのは、愛国という名の現状追認、単純保守、奴隷根性ではないかと思います。

 私としては、武道による礼節や愛国心の涵養もいいけれど、世界の武道の体験を通して、「身体文化の多様性、可能性」を学んでもらいたい思いがするな。

 日本武道と中国武術の比較もおもしろいし、ブラジルのカポエイラや西洋のフェンシング、シラット(インドネシア)、最近のロシアやイスラエルの武術もおもしろそう。カポエイラは音楽と一緒にやるようだから、子どもには楽しいよ。

 日本武道なら柳生心眼流のように甲冑を着てやる武術が絶対子供に受けると思う。
 多摩地区は天然理心流をやるとか、地域の特性に合わせて、マニアックにやってもらいたい。その方が郷土愛が育つかも。

 しかし所詮武道はケンカの技術、いじめや事故の副作用も大きいから、武道発のボディーワーク(ゆる体操やフェルデンクライス、伊藤式体操などなど)がいくつも出てきているので、本当はそっちの方が教育的かもしれません。

 せっかくの武道必修化のチャンスをもっと大きな視点で考えて、実施してもらいたいものです。

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Comments

文部省認定の武術(剣道はそうでもないけど)は、国際化していらい「勝てばいいでしょ!強けりゃいいでしょ!」というノリのスポーツになってしまっていて、「我が国固有の文化」からほど遠くなっているように思います。
個人的には、座禅や茶道、華道など頑固に守っている日本の伝統文化を必須化して欲しい気持ちもあるのですが、どうでしょうか?

アド仙人さんのおっしゃるように、世界の武道を通じて、、「身体文化の多様性、可能性」を学ぶことは大賛成です。
できれば、学期毎や月毎に出し物が違うと楽しいですね。
ただ、先生探しが大変ですね。
文部省認定の武道は、結局のところ先生探しが楽っていうのもあるような気がします。

Posted by: 天目太郎 | August 22, 2011 at 10:22 PM

 天目太郎さん

 そうなんです、先生探しと既存の施設の利用の便利さ、そして文科省傘下の団体の利益、というところが大きいと思います。
 少子化で生徒が減っている中で、いかに安定的に生徒を確保するかということもあるでしょう。

 しかし、スポーツ少年団もそうですが、ろくでもない先生に当たると子どもは悲劇ですから、慎重に選んでもらいたいと思います。

 武道より、おっしゃる通り茶道なんかの芸事の方がよいと思います。能や小唄、歌舞伎も面白そうですね。

 しかしいずれも集団教育には適さないかなあ。

Posted by: アド仙人 | August 23, 2011 at 09:07 PM

twitterでこのURLを知り、拝読しました。

為政者がいうところの「武道必修化により鍛えられる愛国精神」、単なるイメージでしかないように感じます。
なぜ柔道で相撲道で剣道なのか?
説得力のある説明を求められたらおそらく濁して終わるでしょう。
で、それぞれの歴史背景、精神、武道必修化により生じうるメリットデメリットについての説明を求められたら、逃げることでしょう、おそらく。

殊、柔道に関しては、部活などにおいて事故が発生しています。
27年間に108人の生徒が死亡しています。
「根性が足りない」の一点張りで、医療の知識もなく安全への配慮もない指導者が乱取稽古で生徒に危険な技をかけ、意識障害などを起こしているものがほとんどです。
年間4人も死ぬような危険な現状を放置したままでの武道必修化です。
教育上の効果云々以前に、この点が納得いかないので、武道必修化には首肯できません。

内田樹先生おっしゃるとおりで、柔道も正式には明治以降のものです。
維新前は「柔術」でした。
明治以降の武道に関して、それを伝統と見るかどうかは個々人の主観によるところが大きいので、一般論を展開するのは難しいと思います。

が、これにより、心を学ぶことができるのか?

武道の中で本当に心を学ぶことができるのは、ある程度人生経験を積んでからだと私は考えております。
「武道により精神を修養する」という目的を持つのもそれに向かって励むのも、意志という心が働いてのことです。
固い意志は、おおむね人生経験を積んで悩みや思考を深めて初めてもてるものです。
世の中のあり方を学ぶことで精一杯の子供たちには、負担が大きいのではないでしょうか。

むしろ、日常の生活の中で、いかに友達と会話し、ケンカし、人がどう感じどう行動するのかを学ぶことのほうがずっと現実的です。
日常の生活だって稽古のひとつなのですから。

Posted by: mayusuzu8 | August 24, 2011 at 10:32 AM

mayusuzu8さん

 コメントありがとうございます。

 おっしゃることには私も賛成です。
 教育効果より、リスクの方が大きいと思います。
 よほどの力量のある教師でないと、今のいろいろな問題を抱えた子どもに武道の技を教えるのは難しいでしょうね。

 私の武術も基本的に「大人向き」で、意志と目的が明確になったところで大きな教育効果が得られると考えています。

 ただ困ったことに我々が反対しても、制度は動き出してしまうことで、いろいろな意見や対案を出していくことが求められると思います。

Posted by: アド仙人 | August 24, 2011 at 06:22 PM

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