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March 15, 2012

パニックは起きない

 災害時などで追い詰められると人々は理性を失い、パニックになって収拾がつかなくなったり、暴動や略奪が横行するというイメージがあります。

 これまでハリウッドの災害やSF映画ではそういうシーンが何度となく流されてきて、私たちは知らず知らずのうちに「洗脳」されていたようです。
 その世界観は、人間というものは本来獣であり、理性のコントロールが効かないと利己的になり、退行するものだ、というイメージでしょう。

 しかし、膨大な社会学、災害学の調査では真実は反対のようです。

 前出の「災害ユートピア」によると、ある社会学者が

 1954年にパニックの事例を多く発見できると信じて、それをテーマに修士論文を書き始めたが、しばらくすると「どうしよう。パニックについての論文を書きたいのに、一つも事例が見つからない」という羽目になった。p165

 そうです。実際はそんなものらしい。

 パニックの発生を信じることは、すなわち一般民衆を軍により制圧もしくはコントロールされるべき問題として扱うことを意味する。ハリウッドは熱心にこれを煽っている。だが社会学者は違う。p165

 災害にしろ、隕石や宇宙人の襲来にしろ、人々が冷静に行動して時に仲良くしていたらドラマにならないので、愚かでうろたえる民衆と敢然と立ち向かう勇気ある主人公を対比させていくのでしょう。
 そして権力者から一般の人までが、非常時のパニックの存在を信じてきたのです。でも今回の震災を機に、そのイメージは正されるべきでしょう。

 特に困ったことに権力者たちが、ありもしない民衆のパニックを怖れて、恐慌状態に陥ってしまうことです(エリート・パニック)。そして情報を隠したり、不適切な行動を繰り返したりする。これは今回の日本だけのことではなく、世界中に見られることのようです。
 そして、それまで隠されていた不正や矛盾が暴かれて、時には革命や社会変革に発展していった事例もあります(ニカラグアなど)。その点では、日本はおとなし過ぎる方かもしれません。

 アドラー心理学には、人が追い詰められたときに取る行動はその人の最も重要な目標を表すという「最優先目標」という概念がありますが、確かにそういう時は人の「本性」が現れるようです。
 しかもその本性は普通、パニックと形容されるのものではなく、利他的、共感的行動となって現れます。

 ちなみに避難行動で人々が恐怖に駆られた行動をすることは、パニックではありません。それは現実に接触できている「正しい行動」で、災害時には「恐怖を感じるべき」であり、「怖がっていると正しい行動がとれない、とは言い切れない」といいます。

 切迫した恐ろしい状況に置かれた人々に対する研究結果をクアランテリ(災害学者=引用者注)は災害学につきものの素っ気ない表現で次のように記している。「残忍な争いが起きることもなく、社会秩序も崩壊しない。利己的な行動より、協力的なそれの方が圧倒的に多い。」。700例以上もの災害を研究した結果、パニックはほとんどないに等しい現象だということがわかったと、彼は言っている。彼に続く研究者たちも徹底的に事例を調べたが-900件以上の火事における2000人についての調査を含む-人々は行動はおおむね理性的で、時に利他的で、けして文明の化粧版のはがれにより顔を出した野獣のそれではなかった。しかし、映画、大衆の想像の中、メディアによる報道、そしていくつかの昔ながらの災害対策、これらにはまったく別の世界観が出現する。p167

 非常時には、人は生き残るために潜在的に持っていた「共同体感覚」が発動するのでしょう。

 震災を経て、もう私たちは新しい人間像を持ってもよいと思います。

 

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