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April 03, 2012

「ストレスや苦手とつきあうための認知療法・認知行動療法」

 大野裕・伊藤伸二著「ストレスや苦手とつきあうための認知療法・認知行動療法-吃音とのつきあいを通して」金子書房

 日本における認知療法・認知行動療法の導入者で第一人者、大野裕先生の本は数多くありますが、本書は吃音臨床に携わる人とのコラボという、やや異色作といえるかもしれません。

 伊藤伸二先生という方が率いる、日本吃音臨床研究会に招かれて認知療法入門講座を行ったワークショップの記録です。
 普通認知療法というと、うつとか不安障害とか、いかにもというと変ですが、「心の病気」の治療法として売り出されることが多いと思うのですが、本書は吃音が対象です。吃音というある意味で「治らない」障害と、当事者がどう向き合うか、付き合っていくために生活の中で「認知療法」をどう生かすかというのがテーマになっています。

 前半は大野先生による認知療法の入門編で、これはすでに学んだことのある人には特に目新しいところはないのですが(初めて接する人にはまさに入門としてよいと思います)、後半は大野先生の公開カウンセリング、伊藤先生との対談、伊藤先生による「認知行動療法と吃音」の考察とあって、なかなか盛りだくさんで面白かったです。

 医者でありながら、というとほかのお医者さんに怒られそうですが、大野先生の気取らない、素朴な人柄がカウンセリングや対談の中でよく出ています。大野先生のカウンセリング場面なんて、なかなか貴重なのではないだろうか。

 実は伊藤先生ご自身が子どものころから吃音に悩まされ、様々な治療法にトライしたものの成果はなく、やがて吃音を治そうとすること自体が本人をいたずらに苦しめていることに気づき、「吃音でありながらどう生きるか」をテーマにした「生活中心主義アプローチ」の実践活動をされているそうです。だから説得力があります。

 私は、吃音をマイナスのものと受け取ったことで、吃音に強い劣等感をもち、吃音についての誤った思い込みやとらわれによって悩みを深め、悪循環に陥り、本来のしたいこと、しなければならないことから逃げ、不本意な生き方をしてきました。その後、同じように吃音に悩む人と出会い、吃音と向き合い、自分のもっていた数々の思い込みが、現実のものではないことに気づき、認知の歪みを修正し、行動し始めました。そして、吃音の悩みの悪循環から解放され、吃音とともに生きることができるようになりました。p208

 さらに伊藤先生は実は、「吃音とどう生きるか」ということを考える過程で、アドラー心理学に強い理解と関心を持たれているそうで(他者貢献への注目)、本書でも言及しています。少し長いけど、アドラー心理学のポイントの一つがうまくまとまっているので、引きます。

(6)劣等感の直接的補償をしている人は少なくない
 アドラー心理学では、劣等性、劣等感、劣等コンプレックスを区別します。客観的な劣等性があっても、主観的な劣等感をもつとはかぎりません。また、人生の課題から逃げる、劣等コンプレックスに陥らない人はたくさんいます。私たちは自分のもつ理想と現実のギャップに直面し、劣等感を感じます。ギャップを埋めるために努力しますが、それが「補償」です。補償には、直接的な補償と間接的な補償があります。

 直接的な補償とは、子ども時代に体が弱かった人が体を鍛えてスポーツ選手になったり、学業成績の悪かった子どもが、そのことをバネにして勉強し、偉大な科学者になるなどです。吃音に悩んだ人が、アナウンサーや弁護士、落語家や俳優になるなど、劣等感のもとであった話すことに挑戦して実現しています。

 間接的な補償とは、劣等性はそのままに、別の方向で努力することを言います。吃音で言えば、話すことに向かわずに、小説家や映画監督や科学者になるなどです。ノーベル物理学賞の江崎玲於奈さんは、自分がサイエンスに向かったのは、吃音のために対人関係が苦手だったことが影響しているかもしれないと言っておられます。ほかの病気や障害の場合、間接的な補償はよくみられることですが、吃音の場合は、直接的な補償もよくあることなのです。これも吃音の特徴です。吃音というある意味劣等性といえるもの、劣等感からおこる困難は、どうすることもできない問題ではなく、向き合い、解決できる課題と考えることができるのです。「創造の病い」になりうるのです。国王、首相、実業家、小説家、科学者、俳優、スポーツ選手などあらゆる分野でどもる人が活躍しているのはそのためです。p217

 正直私はこれまで少数ですが、「吃音を治してくれ」と来た方を変化はあっても完全に治せたことがありません。だから苦手なのかと思っていたくらいですが、やはり症状除去は難しいものであり、アドラー心理学や認知行動療法の考え方に立ち返ることが重要なのだと改めて認識しました。

 

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