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May 29, 2012

「愛着障害」

 乳児期から幼児期にかけての養育者との愛着関係の形成が人格に大きな影響を与えることは古くから知られています。
 特に生後6か月から1歳半ぐらいが最も重要な時期で、この時期に特定の人との絆作り、適切な愛着関係を経験していないと、いわゆる基本的信頼感や安心感を形成できず、後々の人格に大きな問題を抱えやすいと言いわれています。

 大人になっても対人関係で過度に敏感だったり、不安に駆られて相手を振り回したり、感情的に不安定になったり、逆に人と親密な関係を形成できなかったりと、いわゆる人格障害と呼ばれる状態になることが多いようです。また、発達障害との見分けがつきにくいともいう専門家もいます。

 それはいわゆる後のしつけとか親子関係というより、もっと生物学的に根底的なものといえます。

 岡田尊司「愛着障害 子ども時代を引きずる人々」光文社新書は、愛着障害を理解するのに格好の入門書だと思いました。
 いつも著者の本はわかりやすいけど、質が高く、量もそれなりで、すごい筆力だと感心していました。

 愛着に問題を抱えて生きていた人の例として、たくさんの著名人が挙げられていて、本人たちには悪いけど面白かった。悩みの深さとともにそれにもめげずに生き抜いた生命力にも感じ入ります。

 本書に出されていたのは幼児期に養子に出された夏目漱石、常に「良い子」でい続けなくてはならなかったオバマ米大統領とクリントン元大統領、子ども時代に家族を次々に喪った川端康成、誕生直後に母を失ったルソー、もちろん太宰治、愛着障害を母に持ったと思われるミヒャエル・エンデ、他にもヘミングウェイや中原中也、マーロン・ブランド、種田山頭火などが登場します。

 驚いたことに、母子関係の重要性を説いた精神科医のウィニコットやアイデンティティー論で超有名なエリクソンも愛着の問題を根底に抱えていたらしい。
 逆に「だからこそ」という気もします。
 自らの欠損感、根源的劣等感を補償する試みが精神医学や心理学だったのでしょう。

 特に本書では夏目漱石にかなりの紙数を割いていて、「ああ、こういう人だったのか」と改めて知って大変面白かったです。文学好きにも楽しめると思います。

 アドラー心理学的には、おそらく因果論的決定論としては愛着関係をとらえないと思いますが、その影響力の甚大さは重要視していると思います。愛着理論とライフスタイル形成論の類似性を論じたアメリカのアドレリアンの論文も読んだことがありますし、私もかなり臨床では意識しています。
 いわゆるエディプス期より早期の発達の問題をいち早くアドラーが指摘していたという家族療法家も知っています。

 適切な愛着形成は、他者への信頼感、所属感、そして共同体感覚の発達へつながる大切な基盤だと思います。

 著者の博覧強記ぶりにも感心しながら、ためになる一冊でした。

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Comments

良著のご紹介、ありがとうございます。
ヒューマンギルドで知り合った鯖吉さん(ニックネーム)のブログ記事を読んでいるうちに、「自分もAC(アダルトチルドレン)のひとりなのではないか?」という疑問が深くなりました。
さっそく、ACの自助グループに何度か出席してみました。
ミーティングの出席者さんたちの告白を鏡にして、自己検証しました。
現在は、ACである自分を認めております。
父がアルコール依存症的で、家庭内では絶対君主的な支配力を振るってました。
団らんの安心や心の交流が、ほとんどありませんでした。
「愛着障害」に近い要素が、僕の中にもたしかにございます。
「補償」行動が、少年時代からの自身のライフスタイルの基調になっていたように思います。
中学・高校時代は卓球部のキャプテンをつとめ、卓球の栄光を狙いました。
身体をこわして卓球の夢が挫折してからは、芸術至上主義に走ったり、極端な教養主義にのめりこんだりして、低い自己評価と脆弱な自尊心を補強することで必死になりました。
長くなって、すみません。
ACを自認しながら、カミングアウトさせていただきました。
この本を、読んでみたいと思います。

Posted by: 行動 | May 30, 2012 at 01:40 AM

 行動さん

 貴重なお話ありがとうございます。

 大なり小なり愛着の問題は誰にでもあって、それにどう対処するかがということなのだと思います。

 人間を深いところからとらえるには大切な視点だと思います。

Posted by: アド仙人 | May 30, 2012 at 09:03 AM

ブログいつも楽しみに拝見しています。
私もこの本は読んでみて入門書として最適だと思いました。

そして、確か後半部分に、愛着障害のある人はどうしたらいいかということで、「役割をもつ」というような部分があったと思います。

私なりに理解したのは、アドラーでいう「貢献感」「所属感」という
事により、人とのつながりを体得?していくのだと思いました。

ですので、ブログ最後の「適切な愛着形成は、他者への信頼感、所属感、そして共同体感覚の発達へつながる大切な基盤」というご意見、私も本当にそうだなぁと思いました。

もう一度読み直してみようと思います。
本のご紹介ありがとうございます。

Posted by: シオリン | July 23, 2012 at 06:22 PM

 シオリンさん

 ありがとうございます。

 おっしゃる通り「役割を持つ」というアプローチが最も安全だし、役に立つでしょうね。

 面白く学べる一冊でした。

Posted by: アド仙人 | July 23, 2012 at 06:49 PM

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