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July 05, 2012

「記憶はウソをつく」

 最近アドラー心理学の十八番である早期回想解釈の勉強をさらに深めるべく、記憶の心理学に関する文献をいろいろ当たっています。

 その中で、榎本博明著「記憶はウソをつく」祥伝社は、一般の方も記憶がいかにあやふやでもろいものかを実感できる良書だと思います。

 80年代からアメリカで問題になった偽の虐待の記憶を植え付けるセラピストの話、事件の目撃者の証言の危うさ、実際の実験による記憶の変容例など、心理学には記憶の曖昧さや変わりやすさを実証、例証する話がたくさんあります。

 でも実際に生活している私たちは、あまりその実感がないのが不思議といえば不思議です。おそらく、記憶なしには私たちの生活や行動は成り立たないので、記憶の内部にしかいられないので、その変化に気づきにくいということがあるのでしょう。

 しかし、実際は本当に記憶はもろいもののようです。
 それは今も絶えない冤罪や不当逮捕、不当捜査の温床にもなっているから恐ろしいことです。本書には、知的障害児施設で二人の園児が亡くなった甲山事件など、その実例がいくつも考察されています。
 にもかかわらず、まだ警察、検察、裁判所は目撃証言の危うさに気づいていないか、知らないふりをしているようです。
 しかし裁判員裁判が普及してくれば、裁判員は必ず頭にこの問題を入れておかないといけないでしょう。

 特に自伝的記憶については、記憶の再構成理論という視点が重要です。
「記憶の再構成理論とは、記憶は出来事が起こった時点で固定されるのではなく、あとになって想起する時点で、その時の視点から再構成されるとみなすものである」
 

 このように想起というのは、オリジナルな経験をそのまま保存しておき、思い出すときに、それをただ引き出すというような受動的な作業ではない。また、目の前の出来事を冷凍し、そのままに保存をして、回答すると冷凍前のときのままの形で出来事が思い出される、というようなものでもない。
 想起するときの視点から、過去経験の素材の痕跡をもとに再構成するという、きわめて能動的な作業なのだ。そうであるなら、想起された出来事が過去に経験された出来事と全く同じである保証はない。p143

 まさにアドラーが発想し、理論化したとおりのことが、現代の認知心理学の基本的考えになっているといえます。

 記憶の内容がゆがんで変わっていく要因としては、聞き手の質問の仕方で誘導される部分が大きく、まさに語る人と聞き手との相互作用の産物といえます。
 他に強い情動を喚起されること、集団や周囲に合わせようとする同調心理、権威者によるフィードバック、スリーパー効果(信憑性がある情報源だと思わせられるとその方向に歪んでいく)などがあります。

 認知心理学では、そこから記憶のあやふやさを指摘し、捜査や取り調べなどで間違いが起こらないように注意を喚起しているのですが、援助の学であるアドラー心理学では、それを人間の本性として、建設的に利用しようとしているのでしょう。

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