山梨をつくり直す
10月4日に甲府で中沢新一さんの講演会があったので行ってきました。テーマは「山梨をつくり直す」。
来年開かれる予定の国民文化祭というイベント(1年通して県内各地で地域文化に関するイベントが行われる。各県持ち回りで開催しているらしい)の記念講演として、実行委員会が山梨出身で最も著名な学者である中沢先生を招いたものでした。
東京や大阪の縄文・古代から地域の文化・歴史を掘り起こすアースダイバーの運動を続けている中沢さんならではのエキサイティングな内容でした。
その辺の中沢さんの話は何度も紹介したことがあります。今回もその路線でした。
今回の講演で私が理解したことを、断片的に私なりにまとめます。違っているかもしれませんので、私の記憶、考えということでご理解ください。
・今、地域は新しい「大きな物語」を必要としている。それを通して地域の歴史や文化が見直され、運動となる。そういう動きは今、全国各地にみられる。山梨の新しいイメージを作っていく必要がある。歴史的知識を重ねていくことで、地域の価値がもっと高くなる時代を迎えている。
・山梨は一般の人がイメージするような「閉鎖的な小宇宙」「農業中心」「保守」「文化不毛の地」では全くない。「ダイナミックに、フレキシブルに生きて職業を変えていく人々」が多くいた。保守性と作り変える力の不思議な合体が山梨の民である。それは、水田が少ないことによって作物を変えていったということにもよるが、さらには古代、縄文人と海民という海から来た人々が住み着いた土地だからである。
・縄文人は大陸北方から入ってきた人々。南方や西から船に乗ってきた「海民」は北九州に入って(スミヨシ、ムナカタ、アズミ部族というのがいたらしい)日本列島に散らばっていき、日本海から信州に入った人たちがいた。
・信州の安積平に入ったのがアズミ族。その地域にある穂高神社祭りでは今も舟を引っ張る行事がある。
・そのアズミ族と対立していたのがスワ族。
・縄文期、諏訪湖は今よりずっと大きく、松本平まであり、今の甲府盆地を覆っていた巨大な湖とつながっていた。
・水と陸の境界線に古代人は墓を作った。甲府でいえば今の千塚や岩窪などになる。興味深いことに武田信玄はこの岩窪町付近に自らの館を作った。今も「つつじが崎館」と呼ばれるが、「崎」とは「岬」で、古代はその付近が岬であったからだ。まさに武田節で唄う「祖霊まします」地に信玄は住んだことになる。これは信玄の「政治思想」の表現といえる。
・山梨は陸の孤島のように見えるが、実は海や水とのつながりが大きい。海民の末裔には商人が多く出る。若狭から入った近江商人、そして甲州商人もそうである。彼らはダイナミックに移動し、交易をしたり、時代を作っていった。(有名なのは地下鉄を作った早川徳次や阪急や宝塚を作った小林一三などがいます=ブログ主注)。
・織田信長は権力を中心にその周りに商人、農村を同心円状において支配し、流通を支配しようとした。そこでは神社・仏閣が力を持つのは迷惑であり、宗教勢力と戦った。現在でいう小泉純一郎の「構造改革」で、今は橋下徹的なものになる。日本史には時々そういう存在が出る。
・構造改革主義者は「ぶっこわしちまえ」といって、それが世界のスタンダードだと叫ぶ。そして小泉純一郎は地域文化を壊してしまった。しかし、3.11以降は地域の力を高めることが国土を強くすることになる。その土地の経済を守り、その土地の人々が生き生きと生活できることを目指すべきである。
・武田信玄は信長とは正反対の政治思想の持ち主であった。真言宗に対して並々ならぬ理解を示し、祖霊の地に権力を作った。真言宗とは祖霊信仰であり、高野山とは巨大な墓地である。信玄は宗教を使い、伝統の上に新しい社会に作り変えていくことを目指した。古い伝統を生かそうとした。
・また信玄が諏訪大社に対しても並々ならぬ関心を持っていたのは周知であり、そこには深い理解があったのだろう。
・山形の庄内は近代化から取り残されたがゆえに、在来の野菜が残り、今大いに注目されている。同じように近代化から遅れたり、古いとされていたものが気がつくと時代の最先端にいるといことはよくある。たとえば、山梨の道祖神祭りは、縄文からの文化を新しい形に組み替えて伝えられてきた、日本中でも非常に稀有な存在である。山梨の根源には道祖神がある。
・だから山梨は安易な時代の流れに抗す地になってほしい。
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