親の影響はどこまでか?
子どもの発達において、親の影響力はどの程度なのでしょうか。三つ子の魂はいつまでか?でも紹介した「社会・情動の発達とその支援」(ミネルヴァ書房)から、興味深いところを覚えに引きます。
臨床系では割りと親の影響力を大きく見積もる傾向があるように思えますが、昨今の発達心理学は必ずしもそうではなく、大胆な説が出されているようです。
ルイス(Lews&Feiring,1989;Lewis&Rosenblun,1975)は、「社会的ネットワークモデル」を提起して、仲間関係は、初期の母子関係や愛着関係から引き出されるのではなく、それは相互に影響をしあうとしても、独立した発達過程をたどると論じた。子どもたちは異なる社会的文脈で異なる要求を課され、異なるニーズに適するように同時的、差別的に異なることを学ぶのだというのである。したがって、母子関係はすべてを決める決定因ではなく、いくつかの関係の一つであり、仲間と関わるときには、母親とのやり取りとは異なるスキルが求められ、それは独立に発達をするという。p119
子供が成長するにつれ、母子関係の影響は次第に減っていくということです。
さらにハリスという人の集団社会化理論(group socialization:GS)はさらにラディカルな説で、親・家庭の影響を真っ向から否定して「親の行動は、子どもが大人になったときに持つ心理特性に何の影響もしない」とさえ主張しているのです。
そんなバカな、と思う人も多いでしょう。しかし、
愛着関係は、母、父、他の保育者間では一貫していないし、親子関係の仲間関係への影響、きょうだい関係と仲間関係の相関関係も一貫していないという事実から、子どもたちが、自分が何を期待されているかを母親から学んだとしても、それは母親にだけ有効で、父や姉には有効ではないと論じている。同様に、子どもたちは家庭内と家庭外とでどのように行動するのかを別々に学ばなければならないという。また、文化的知識や行動規範は、親・教師からその子にという個人から個人という経路で伝達されるのではなく、親の仲間集団から子どもの仲間集団に伝わり、仲間からその個人へと伝わるのだという。したがって、「子どものパーソナリティーに永遠の印象を刻み続けるのは、彼らが仲間と共有している環境」であり、家庭環境ではないと結論づけている。p120
と発達心理学の知見からはそう考えるべきだと主張しているようです。一貫した結果が得られないから、法則的に影響力があるとはいえないという考えのようで、親の影響がどのくらいあるかは個々の事情の問題になるともいえ、それはそれで妥当な考えのような気もします。
アドラー心理学の理論は、この説とは割と整合性が取れると思われます。
パーソナリティーの発達において、親や兄弟は「原因」ではなく「影響因」に過ぎない、主体的に選択するものだと根本的には考えているからです。
本書でも著者は、このGS理論は、
子どもたちは乳児であっても、母子という閉じられた対の中にいるのではなく、親子共に社会集団の中で暮らしていることを再発見させる意味があるといえ、従来の個人主義的な知識の獲得過程の見方や愛着の概念に見直しを促すことにもなろう。p120
と評価しています。
親の子どもへの影響力が意外にないとがっかりする人もいるかもしれませんが、かえって楽な気持ちにもなれます。
「なんで、こんな子に。親の育て方が悪かったんだ(涙)」と思う必要は必ずしもないからです。
「親のせいだ」と子どもになじられても、
「お前が自分で決めたんじゃろ」と言い返せますからね。
家族の形態が時代とともに変わってくるにつれ、発達心理学の理論も変わってくることのようです。
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