「気持ちがいい」を大切に
神田橋條治先生の「改訂 精神科養生のコツ」(岩崎学術出版社)を以前紹介しましたが、本書の肝が冒頭にあります。養生とは何か、どのような心がけでするとよいか、という先生の考えです。
端的にいうと「気持ちが良いこと」をすること、探すことです。これに尽きる。そのために様々なメソッドが本書では紹介されています。精神科の患者さんだけでなく、すべての人に当てはまる発想でしょう。
よく言われることではありますが、神田橋先生が言うと含蓄が出てきます。
日々の生活の中で、自分なりに「あぁ、気持ちがいい」あるいは「気分がいいなぁ」と感じる瞬間を探すつもりでいてください。そして「気持ちがいい」と感じる瞬間に出会ったら、その感じの中に居て、その感じを味わいながら、次のように考えてみましょう。「この気持ちの良さを、もっと良くするにはどうしたらいいだろう?」何があればもっと良くなるだろう?何がなくなればもっと良くなるだろう?」いろいろ空想してください。自由に空想してください。ただ思うだけですから、実現不可能なことでも、非道徳的なことでも、口に出して言えないようなことでもかまわないのです。「気持ちがいい」という感じの中に浸っている間に、そうした空想を続けてみましょう。 p17
興味深いのは、先生はいつもでもどこでも気持ち良くなることを目指しているわけではないということです。人生には、気持ちの良くないこと、気持ちの悪くなることはあります。それを体験、咀嚼することは心を鍛えます。
気持ちの良いことを探すのは、「いまの自分の心身にはどのような事柄がピッタリするのかを見つけること」が目的で、自分を知ること、自分の感覚に注意を払い、受け止める力をつけることが大切ということです。
なぜかというと多くの人は、気持ちの良いことではなく、「やらなくてはいけない」「すべき」ことに心を奪われていて、心が鈍感になっているからです。
私の武術の師の師、流派の総帥に当たる方は、私たちの動きや型を見て修正するとき、「これ、気持ちいいです」「これ、よくないです」と仰りながら生徒の体に触れて直すことがありました。けして痛みに耐えろとは言いません。
身体の自然、本来の力を引き出すには大切なことなのでしょうね。
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