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August 27, 2014

芸は身を助く

 山梨臨床心理士会の会報に、毎号会員の自己紹介的なコラムがあるのですが、私にも依頼があり8月号に載りました。一部修正して転載します。

(転載開始)

何事も、好きや道楽で始めただけなのに長く続けているとある程度のレベルになるもので、その結果、ただの学ぶ立場から指導的立場に変わることがあります。時に、最初の頃はマイナーな存在だったのが、時節が変わってなぜかそれが注目されるようになると、その余波がいきなり自分にまで及ぶことがあります。

 私の場合、その一つがアドラー心理学です。一時フロイトと共同研究をしていたアルフレッド・アドラーが打ち立てた個人心理学(Individual Psychology:通称アドラー心理学)は、アドラー以後も北米を中心に独自に発展を遂げていましたが、なぜか日本ではほとんど知られていない存在でした。私は1988年から学んでいますが、今でも私の知る限りアドラー心理学をきちんと学んで実践している臨床心理士は20人もいないんじゃないかと思います。圧倒的少数派です。私たちは仲間と「絶滅危惧種」と自嘲していたくらいでした。

 しかし、今年になってにわかに風向きが変わってきました。岸見一郎氏が書いた「嫌われる勇気」(ダイヤモンド社)がベストセラーになって、世間のアドラー心理学への注目度は一気に高まったのです。そうなるとそれまでいくら私たちが説いても消極的だった出版社も俄然目の色が変わってきます。アドラー本の出版ラッシュが続き、どれもけっこう売れているそうです。その勢いで、人手が足りないものですから私にまでお鉢が回ってきて、せっかくですから便乗しました。9月に全国のコンビニエンスストアで私が監修した本が出る予定です(きっと)。「アドラー心理学で人生は劇的に変わる!ブレない自分の作り方(仮題)」(PHP出版)。買ってね。

 ただ、このブームは偶然来たわけではなくて、学校教員、不登校など子育てに悩む親、企業の人材育成担当者などを中心に、アドラー心理学の良さ、面白さが徐々に浸透してきていました。さらに、アドラー心理学に理解を持つ臨床家、教育者が集まって現状を何とかしようと「日本臨床・教育アドラー心理学研究会 http://adlerian.jimdo.com/ 」を立ち上げて(私も発起人の一人)、活動を続けていました。私自身は、それまでのような一般の方がムーブメントとしてアドラー心理学をやるのもいいけど、心理学と名乗る以上はその専門的立場の人がきちんと研究し、発信することが重要と考えていました。その中でここ10年近く、私たちは毎年のように日本心理臨床学会、日本教育心理学会、日本ブリーフサイコセラピー学会などで自主シンポジウム、発表、ワークショップを重ねてきました。そういう下地があったのです。

 そしてこの911日(木)には日本心理学会(同志社大学)で、「人間関係を解決するアドラー心理学」というシンポジウムに私もシンポジストとして参加します。一般の人たち主導だったアドラー心理学が日本の心理学の世界にもさらに知られていくことが期待されます。

 もう一つの「芸」は武術、特に「中国武術・気功法」です。元々武道が好きだった私が、大学時代に出会った中国武術(太極拳、形意拳、八卦掌といいます)に魅了され、山梨に就職で戻ってからも時々東京の本部道場へ通っていたら、自然に甲府に支部を作ることになり、気がついたら太極拳の指導者になってしまいました。

 太極拳だからスローで簡単でしょ、と思われるかもしれませんがさに非ず。能が動かないから簡単でしょ、と言っているようなものです。確かに一般向けにアレンジされた簡易的な太極拳もありますが、私が属するのは超伝統的な武術の流派です。茶道でいえば千家、歌舞伎でいえば市川家みたいなものですか、道教の流れをくむ保守本流で中国文化のエッセンスがあると思います。一番偉い老師は大戦後共産中国を逃れて台湾に渡り、中華民国から人間国宝としての扱いを受けていた人でした。しかし、それだけのものは一般には広まりにくいもので、私も武術好きなマニアックな数人の仲間と稽古を重ねるだけの日々でした。ただ、太極拳や気功法が広い意味で「心の癒し・成長」に関わるものだという理解はありました。太極拳や武術は、動き自体は無理がないけれど注意点が多く、やっぱり極めるのは大変です。でもそこに身体の知恵を引き出すすごく深い知恵があることがわかってきました。何か臨床に応用できないかとは思っていましたが、私の能力では具体的な形にはなりませんでした。武術はあくまで私の道楽に留まっていました。

 それが2000年代に入ってから、世間に身体論ブーム、古武術ブームというのが起こって、ヨガなどと共に、にわかに古の身体操法がスポーツ界、格闘技界などで注目されました。古武術研究家・甲野善紀氏や思想家・内田樹氏らの活躍も大きいです。

 そんな中、「気の心理臨床入門」(金剛出版)を著した黒木賢一先生(大阪経済大学・太極拳)にお声かけいただいて、2010年の心理臨床学会で「武術と心理臨床」というすごいテーマのシンポジウムに出させていただきました。同じシンポジストにはユング心理学の老松克博先生(大阪大学・杖道)がいらっしゃいました。武術の縁でアドラーとユングが再会したというと大げさですが、でもまさか趣味のことで権威ある学会で話をすることになるとは夢にも思わなかったです。

 今、心理臨床界では「マインドフルネス」がブームです。今後より身体的でホリスティックなものが注目されるかもしれません。実際基礎系の心理学や脳科学で、武術を研究している人は現れているようです。私もせっかくいただいたご縁ですから、私なりに武術や身体性を含んだ心理的アプローチを追求していきたいと思っています。関心のある方は私の教室にお越しください。「全日本柔拳連盟甲府支部」 http://koufujuken.jimdo.com/

 以上のような展開が起きたのも、現在のネット社会ならではと言えます。本質的におたくでマニアックな私がやけに活発に活動することになったのも、自分のブログによるところが大きいといえます。90年代パソコン通信をやっていた私がブログという新しいツールの登場直後から「山梨臨床心理と武術の研究所 http://taichi-psycho.cocolog-nifty.com/ 」というこれまた怪しくマニアックなブログを始めました。もうこちらも10年近くやっていて、そこから私に注目して下さる方が時折います。前述の黒木先生もそうでした。講師依頼も時々来ます。何でも発信することが大事ですね。

 以上から私が若い人たちにお伝えしたいのは、好きなことをたとえマイナーなことでも続けることです。きっとその過程で思いもかけない偶然的な出会いがあって、気がつけば大きな世界とつながっているかもしれません。たとえ何もなくても、小さな自分の世界を保つことは臨床家のセルフケアとしてよいことでしょう。

 元々在野で好き勝手なことをしていたい私は、研究など学者の真似事は苦手です。自分のことを心理学者ではなく、「心理芸者」と思っています。そうはいっても乗りかかった船がいっぱいあるので、しばらくは次世代の実践家、研究者、修行者を育てることになるでしょう。そして、仲間と始めた開業の場(心理臨床オフィス・ルーエ http://office-ruhe.jimdo.com/ )を中心に、芸のレベルを高め、芸域を広げ、「達人」になることを目指したいと思います。

 

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