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December 19, 2015

『アドラーと精神分析』

 コフートの自己心理学が専門で、一般の方にはベストセラー作家、評論家で知られる精神科医・和田秀樹先生が正面からアドラー心理学と精神分析学を比較、論じた本が出ました。

 和田秀樹『アドラーと精神分析』(アルテ)

 今やアドラー心理学物の専門出版社となっているアルテからのナイスショットな企画といえます。和田先生にとっても意欲作といえるのではないでしょうか。

 やはりなんだかんだ言っても、歴史的にも、良いにつけ悪いにつけても、精神分析学は臨床心理学の保守本流、王道といえます。アドラーも一時期フロイトとともにいたこともあり、フロイトを反面教師にしながら自らの心理学を打ち立てていったので、影響は当然あるわけです。しかしながら、歴史的にははっきり言って、両者は反目、対立する関係にあったといえます。今でもフロイト側、アドラー側共に、相手に対して良いことは言ってはいません。というよりフロイト側はアドラー心理学に対して完全無視を決め込んで、理解しようともしていない風に見えます。この辺はユング心理学に対する態度とは違いますね。巨人・河合隼夫先生の存在のためでしょうか。

 しかし、和田先生は精神分析学バリバリの出身でありながらも、アドラーへの賛辞は惜しみません。率直に自己心理学とアドラー心理学の類似性を指摘しています。これは学者、臨床家の習性を知る私のような者からすると、稀有なことです。和田先生は、「アドラーに魅了されている」とはっきりおっしゃっています。

 本書をごく大雑把にまとめると、「精神分析学はアドラー心理学に近づいてきている。一部はほとんど同じである」ということにあると思います。

 このような考え方の違いからアドラーは結局フロイトと決別するわけだが、そのまま精神分析はフロイト理論を堅持していくかというと、そういうわけではなく、これまで検討したように、現実には徐々にアドラーの考え方に近付いていると言ってよい。 p156

 無意識の中にあるものについての理論は、フロイト自身が、アドラーの考え方に近付いて、人間の性愛みたいなものだけではなく攻撃性や死の本能のようなものが無意識の中にあると認めるなど、精神分析は、フロイトの生涯のうちからも、いろいろな意味でアドラーの予言が当たってきたと言うことができる。
 いずれにせよ、精神分析は性的な問題や欲動の統御より、背後にある現実の人間関係や社会と人間との関わり、あるいはリアルな人間関係が大事と考えるようになったり、無意識レベルから意識レベルのものを扱うようになってきたという意味で、当初のフロイトの考え方からどんどんアドラーの考え方に変わってきたと言っていいだろう。 p156

 …そういう意味では、アドラーが異様なほど先見性を持った治療家であったと言うことができるだろう。 p167

 私としては、和田先生がとてもスッキリと精神分析をまとめてくれているので、精神分析の理論と人物の歴史がとても勉強になりました。スッと頭に入りました。公認心理師の国家資格の勉強にもなりそうです。

 やや上級者向けですが、アドラー心理学を学ぶ人には必読の一冊となるでしょう。

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