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September 11, 2016

『身体系個性化の深層心理学』

 スポーツと心理学は、メンタルトレーニングやコーチングなどによって最近かなり密接な関係になっていますが、ユング心理学と結びついた大変稀有な本です。
 
 
 ユング派最強の技法といわれるアクティブ・イマジネーションを通して、一人のアスリート(トライアスロン)が成長をする事例を物語っています。
 私は大変興味深く、面白く読みました。
 
 精神分析学はリビドーという概念で、アドラー心理学は全体論で、身体性とある程度接続しようという方向性はありますが、ユング派はどちらかというと観念論的な印象がありました。「元型」や「集合的無意識」も身体的といえばそうですが、どうも実感しがたいものです。
 
 しかし、著者によれば、それはこれまでのユング派の人たちの関心のあり方の問題で、ユング自身は本来非常に身体性の強い人で、ユング心理学は深く身体の世界を探ろうという動機が強かったはずだというのです。
 実際ユングは、非常に凝った装飾と革張りの分厚い本を手作りしたり、大工仕事が大好きだったそうです。
 身体作業、物理的作業といえば、ユングの別荘作りも半端なものではなかった。彼はやはり数十年の歳月をかけ、自力でコツコツと別荘を建て、改築を繰り返している。石を切り出して、刻み、積むために、ユングは石工のギルドに入りさえした。この石造りの別荘はボーリンゲンの塔と呼ばれている。そこには電気も水道もなく、原始的な生活を送ることが想定されていた。この究極的とも言えるDIYに注がれたエネルギーを取ってみても、ユングは職人的な身体系個性化の人である。  p133-134
 これは確かに半端ない。だからこそ、当時にして錬金術、煉丹術(気功)、クンダリニー・ヨーガなどの東西の身体技法に並々ならぬ関心を持ったのでしょう。ユングが今の時代にいたら、中国か台湾で武術や気功の修業をしに来たかもしれません。
 
 ユング自身はどちらかというと、書斎にいて執筆に精を出すフロイトと、毎晩ウィーンのカフェで集う社交的なアドラーとは違うタイプだったのは明らかのようです。
 
 実際編み出した概念も、お坊ちゃんでお母さん大好きなフロイトは「エディプス・コンプレックス」だし、友達が多いアドラーは「共同体感覚」で、内向的で霊感が強そうなユングは「集合的無意識」だったりします。
 技法も、患者を寝椅子に横にさせるフロイトと、対面して活発な会話をするアドラーと、一人(もしくはそれを見守るもう一人と)イメージの世界に沈潜させるユングと、個性が際立っています。
 
 私自身はタイプとしてはユングに近いと思います。でもユング派にならなかったのは(大学のユング研究会に一時いたこともあるのに)、どうも肌合いが合わないというか、実践的でないというか、観念的な印象があったからです。
 
 実際、日本のユング派の先達は、ユングのこの辺りのところはあまりにも妖しい領域なので避けてきたような印象が私にはありました。それよりも、ユングの哲学的、ファンタジーなところを強調したり、箱庭などとっつきやすい技法を紹介することで日本に根付かせようと努力されてきたようにはた目には見えました。それは成功したといえます。まず、知識人、読書人層に受け入れられ、女性臨床家に多く受け入れられました。
 日本人は(特に女性は)、ユング好きが多いです。
 
 著者の老松先生は、現代のユング心理学の欠けているところを補おうと立ち上がった(?)のかもしれません。実際著者は、合気道や杖道をやっていた武術家です。さもありなん。
 
 実は6年ほど前の日本心理臨床学会の「武術と心理臨床」の自主シンポジウムにシンポジストとして出られ、私もご一緒したことがあります。私は今年と同じく太極拳を紹介し、先生は本書のモチーフにつながることを語られていたように思います。
 
 
 今回このような実践と研究の集大成を出されて素晴らしいと思いました。
 
 

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