「大人の稽古」をしようということです。
若い頃のように筋力、力を中心にした稽古によって、より早く動き、より強くなることを目指すのではなく、加齢による身体の変化に応じた、あるがままの心身を活かした稽古をするべきということです。
武術・武道・格闘技は、とにかく「勝つこと」「どっちが強いか」「何が強いか」に終始したり、見た目の派手さや高い採点を得ることを中心にしてしまいがちです。特に競技系の武道はそうですが、意外に合気道や中国武術でもその傾向はうかがえます。
人は、特に若いうちは、他者との比較優劣、他者からの評価にこだわってしまうものだからです。『嫌われる勇気』が売れる所以です。
著者は、武術の稽古はそれではいけないといいます。
(引用開始)
稽古の内容は、年齢とともに変わっていくのです。加齢(エイジング)の流れに沿って、稽古の質を意識的に変えていく必要があるのです。「青年(若者)の武術」の稽古をするのではなく、40歳を超えたら「大人の武術」の稽古をしていくべきです。そうでなければ身体を壊しますし、稽古もいつまでも続きません。 …(中略)…
そうして変わっていく技の内容や質は、一つの技術的な成熟であり、武術という伝統文化に対する思想的な成熟であるともいえます。そしてそれは、加齢に伴う身体的な仕様の変化に柔軟に対応した、心身の変化でもあるでしょう。 …(中略)…
「大人の武術」は、他者と比較したり他者の評価を気にしたりしません。私が私として、年齢に合った術を練る。そして、年齢に合った身体の調整をする。年齢に合った身体操作をする。それこそが「大人の武術」の稽古です。 p24-25
(引用終了)
全くその通りです。
特に高齢化社会になった今では、護身術を身につけたり強くなることも当然大事ですが、そのためにも今の年齢の心身の状態に合ったやり方で稽古するべきです。
50を過ぎた身としては、私は太極拳などの内家拳をやっていてほんとに良かったと思います。特に頑健でも運動好きでもなかった私が、今でも若い頃以上に相当元気に動けているのも、「無理しない武術」を習ってきたからであることを実感しています。
元々空手家の著者は40を過ぎてからぎっくり腰になったショックと太極拳との出会いが、そのような発想の転換を生んで、本書につながったみたいなので、特に空手系の激しい武術を学ぶ人に向けてメッセージを送っているように感じられました。
中高年の武術家同志諸君、是非、参考にしてください。
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