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April 13, 2017

『吉福伸逸の言葉』

 私にとっては個人的な思い出がわいてくる本です。
 
 80年代、日本にトランスパーソナル心理学、ニューエイジ運動を紹介した立役者、2013年に亡くなった吉福伸逸さんの言葉をお弟子さんたちが集めた追悼本といえます。
 
 
 
 
「吉福さんは、ニューエイジ、ニューサイエンス、トランスパーソナル心理学といった、1970年代にアメリカで起こった新しい思想、学問分野を日本へ最初にもたらした立役者です。
 現在、日本で心理療法、ボディワーク、スピリチュアリティ、エコロジー、ホリスティック医療といった分野で第一人者として活躍している方々の多くが、1980年代に吉福さんの影響を受けています。 p2」
 
 といっても最近の臨床心理士、カウンセラーはその名を知らない人が多いのではないかと思います。吉福さん自身も確かに卓越したセラピストではありましたが、別に学者でもなかったし、何かの資格があるわけではなりませんでした。対外的には翻訳家という感じでした。
 しかし、その語学力と人脈、何より圧倒的な存在感で、80年代の精神世界の渦の中心であったのは間違いありません。
 
 吉福さんは当時玉石混交のニューエイジ運動の「玉」の部分だけを抽出し、翻訳して日本に紹介し、ワークショップを展開し、当時流行していたフランス現代思想に対して「アメリカ現代思想」として、対峙させていました。
 特に物理学者のフリッチョフ・カプラ、トランスパーソナル心理学の論客、天才ケン・ウィルバーの翻訳は大きな功績でした。
 
 その中で、ユング派の泰斗、河合隼雄先生もトランスパーソナル心理学に関心を示すようになり、共編著も出しました(『宇宙意識への接近』(春秋社)。河合先生も、『宗教と科学の接近』(岩波書店)という、トランスパーソナル心理学に共感を示す本を出したりしました。
 
 私は大学生時代、サークルの先輩に吉福さんを紹介されて、ある種「衝撃」を受け、学び始めました。
 ないお金をかき集めて吉福さんの講座やワークショップに足しげく参加していました。
 その結果…大学の心理学に関心が薄れ、劣等生になってしまいました(笑)。
 
 吉福さんは、最近主流の「心の治療」のための心理療法ではなく、「自己成長」のための心理療法を極限まで目指していたと思います。統合失調症のような精神病でさえ、けして「病理」ではなく、「成長」の契機ととらえることを主張されて、統合失調症を治さない、症状のプロセスに任せるという前衛的な運動もしていました。
 
 本書にもありますが、若い頃ジャズミュージシャンだった吉福さんは、ワークショップやグループセラピーでは前もって段取りを決めることがなく、あくまで即興的に、その場でやることを決めていたようです。本書によれば、 「プロセスを徹底的に信頼する」という姿勢だったそうです。
 参加者たちを観察し、その場を感じ取って動き、出来合いのプログラムをそのまま実行するということは絶対にありませんでした。そのための方法として、ブリージングといって一種の過呼吸を意識的に長時間続けたり、サイコドラマをしたり、ボディーワークをしたり、意識変容をおこすためにいろいろやっていました。
 
 一度、合宿式のワークショップで、高名な中国武術家・松田隆智先生を呼んで(吉福さんと友だちだったそうです)、形意拳のワークをしたこともありました。私はもう形意拳を習ってたから難なくできたけど、他の普通の参加者は大変だったもしれません。もちろん、みんな楽しんでました。
 
 とにかく今の心理療法にはない過激さがあった感じがします。最近はこういう心理療法を志向する人は、めっきりいなくなってしまいました。確かに日本人には刺激が強くて警戒されそうだし、即興的過ぎて普遍化、標準化はできないですからね。
 
 私は本書を読んで、吉福さんの、太くて厳しくて優しい声が聞こえてくる気がしました。
 
 キャラも能力も、今やっていることも全然違うし、結局同じような道を歩んだとはいえないけれど、やっぱり若い頃受けた影響は大きい、と本書を読んで感じました。無意識のうちに吉福さんの考え方や、やっていたことをモデルにしている自分が多々あることに気づいたからです。
 
 もし吉福さんに出会っていなかったら、私は今頃、普通の心理学を研究している平凡な学者にでもなっていたかもしれません。よかったのか悪かったのかわからないけど。
 
 本書を見て、吉福さんのお弟子さんたちが、その後を継いで頑張ってくれているようで、心強い思いもしました。トランスパーソナル心理学も近いうちに学び直してみたいと思います。
「普通の心理療法」にマインドフルネス瞑想が入る昨今、次に来るものの中に、トランスパーソナル心理学的なものへの再注目があるかもしれません。
 

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