うつの苦しみから抜け出すために、現在のゆる体操を創っていったようなのです。とても興味深い話です。
生来の鍛錬好き、武術好きの高岡先生は日々、死と隣り合わせのような徹底的に厳しい稽古を続けながらの、大学での研究生活と家族を養うために働くことにより、30代前半、遂に心身の疲労が頂点に達し、朝起き上がれなくなり、気分が極度に沈んでしまったそうです。
心身の能力に自信のあった先生は相当なショックだったようです。武道家やスポーツマンは元気で明るい人が多いから、「俺はうつにならない」と思い込んでいることがありますが、やはりけしてそうではないのですね。
うつは誰でもなり得ます。
先生は大学病院の精神科にもかかったそうです。そこで重度のうつ病と診断されました。
うつに苦しみながらも、しかしそこは、類まれに優秀な高岡先生ですから、自身の心身の状態を見つめながら、ゆる体操的な運動(今の膝コゾコゾ体操)を少しずつ続けると、心身の変化を感じ、遂にはうつを抜け出しました。それからゆる体操を体系化して、今のスタイルに仕上げっていったみたいです。
やっぱり優れた人は、転んでもただでは起きないというか、大したものです。
本誌には、高岡先生のうつを抜け出すときの心身の感覚の変化が描写されていて、印象的でした。
(引用開始)
最初に気が付いた変化は、身体の中の方から、ポーと灯がともるような温かさでした。主に腹の奥から脊椎まわりで、その温かさを感じたのです。それからもうしばらくすると、驚いたことに、頭の中で、トクン・トクンと血液が流れ始める音が聞こえてきたのです。あのとき感じた、トクン・トクンという音は、いまでも忘れることができません。頭の中がポーッと少しずつ温かくなってきて、しばらくの間、その音を聞き続けていたものです。
(引用終わり)
身体感覚がすぐれている人だからこそのうつ病回復体験記です。
私は初めてゆる体操を知ったとき、「これはセラピーに使えるな」と直感したものですが、その開発過程に、うつからの治癒があったとは、納得です。
臨床家の方は、動作法とか自律訓練法とかの静的なリラクセーションだけでなく、動的なリラクセーション法であるゆる体操を参考にしてみてください。セルフケアの有力なツールになると思います。
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