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May 22, 2018

『生き心地の良い町』

 ここのところ、アドレリアンはうつになるかならないかみたいな関係者以外はどうでもいい話をしましたが、うつに深い関連のある自殺について、自殺率が明らかに低い地域があるのを知っていますか。
 
 自殺予防研究、コミュニティ心理学の世界では知られた話で、その報告をした本です。
 
 
 四国・徳島の海辺の小さな町が、全国的にも、近隣の市町村に比べても格段に自殺率が低いことに関心を持った研究者が、その街に乗り込んで、調査をしたルポです。著者はこの研究を博士論文にして、学会の賞を受賞したり、その分野で一躍有名になりました。
 
 ただ、本書は全然固くないです。
 
 その町に乗り込んだ著者から見た町の風景、投げかける質問に対する町民たちの意外な反応に対する戸惑い、彼らとのやり取りが丁寧に描かれています。
 結果、著者がその町を好きになるプロセスを私たちは共有できて、「きっといい感じの町なんだな」と思えてきます。
 
 著者の苦労話から、こういう分野の研究の進め方がわかるのも面白いです。
 
 コミュニティにおいて自殺を予防する因子は何か、本書には研究結果として、5つが抽出されていますので、是非本書をあたっていただきたいのですが、それは一見当たり前のようでいて、とてもユニークです。
 
 よくメンタルヘルスや教育分野で使われる言葉に「絆」があります。皆さん、ご承知の通り、震災以降の現在、あっちこっちで「絆」が「横行」しています。でも、本書で私は、絆はけしてその字義通り、ただ単に人と人がつながればよいのでないということに気づかされました。
 
 例えば、その町では赤い羽根募金がなかなか集まらなくて、町の担当者は苦労するそうです。
「だいたいが赤い羽根て、どこへ行って何に使われとんじぇ」と問い詰められて、担当者はたじたじとするそうです。
 普通の農漁村と違って、老人クラブの加入も拒む人もいて、「他人と足並みをそろえることにまったく重きを置いていない」人たちだといいます。
 
 では都会のような人々との接触が希薄で冷たい人たちかというと、そうではなく、よそ者にも多大な関心を寄せてきます。基本、穏やかで優しい人たちで、困ったことがあればすぐに専門家に相談し、行政にもどんどん要求します。精神科の受診率は実は高いそうです。これは早めに受診する傾向があるかららしいです。普通、田舎も都会も、精神科は二の足を踏む人が多いはずですが、ここはなぜか違うらしい。
 
 その町には「病は市に出せ」という言葉が古くから伝えられているそうです。病、病気やつらさや苦しみは、どんどん人々に明かしてしまえ、というようなことです。とてもいい言葉ですね。人々や共同体を信じていなければ、できないことでしょう。
 
 どうしてそんな町ができたのかは、本書を読めばわかります。なんと、戦国末期にさかのぼるそうですよ。
 
 本書のプロセスも結論もすべて省いて、著者が主張していることをアドラー心理学に引きつけていえば、その町の人々は、共同体感覚を持ちながらも、課題の分離(そして協力)が徹底的に実践されて、両者がうまい具合のバランスになっているといえそうだと思いました。
 アドラー心理学も勉強してないのにねえ。
 
 私も自分の地域で自殺予防の研修会を依頼されることがあるので、大いに参考にさせていただこうと思いました。
 
 

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