« スピリチュアル・タスクとセクシャル・タスクを学ぶ | Main | 『春宵十話』 »

August 15, 2019

『はじめてまなぶ行動療法』

 SNS等で心理専門家、学生の間で評判の高い本です。行動療法の基礎から最先端の動向まで学べます。

 三田村仰著『はじめてまなぶ行動療法』(金剛出版)

 一読して、私も改めて行動療法の世界を整理できた感じです。公認心理師試験の受験生にも役立ちそうです。

 本書によると、行動療法には大きく二つの流れがあるといいます。「要素実在主義」と「文脈主義」です。前者はイギリス発祥でアイゼンクやウォルピの系統、不安症が主なターゲットで、認知行動療法やマインドフルネス瞑想はこの流れの中にあるといいます。

 後者はアメリカ発祥で、スキナーの徹底的行動主義の発展形といえ、障害者の療育から始まり、現在幅広く応用されるようになってきており、最近は弁証法的行動療法(DBT)やアクセプタンス・アンド・コミットメント・セラピー(ACT)などが最新のアプローチです。

 初心者向きとありますが、原理的なところをきちんと押さえているので、心理療法全般を思想的基盤から考えたい人にも役立つ内容でしょう。

 アドラー心理学からすると、この二つの中では「文脈主義」が近いところにあるように思われます。価値とか文化的要因も加味して、コミュニケーションの全体を重視するからです。アドラー心理学は深層心理学というより「文脈心理学」といった方が正確であるとは、海外の文献でも昔から言われていたので、言葉からしても、内容的にも近いのは間違いありません。

 実際、何年か前の日本心理学会でアドラー心理学シンポジウムがあったとき、シンポジストの一人としてお話しさせていただきましたが、アドラー心理学は「ACTに似ている」と感想を持った方がいたようです。

 科学的であれ、価値中立的であれ、という態度が絶対的だったイメージの行動科学、行動療法が価値を重視するようになったのは時代の流れを感じます。昔だって実際はそれは建前で、現場のセラピストが価値中立的なはずはないのですが、今や堂々と価値を語れるようになったということなのでしょう。

 今私が大学生だったら、アドラーを知らなければ、これを学んだかもしれません。科学的であることにそんなに魅力を感じなかったので、その時は。行動療法家への道は考えませんでした。

 「第三世代の行動療法」ともいわれるこの流れの特徴は、以下の通りだそうです。

(1)文脈と機能を重視すること、(2)症状の治療を超えてクライエントの人として生きる機能を高めること、(3)理論や技法をセラピスト側にも向けること、(4)これまでの行動療法や認知行動療法に延長に位置づけられること、(5)人間の抱える大きなテーマ(例:価値、自己)も積極的に扱う  p25

 (4)以外は、まったくアドラー心理学と一緒です。私から見れば文脈主義的行動療法は、当人たちが言うほどまったく新しいアプローチではなく、昔からアドラー心理学が射程に入れていたところで、他の心理療法学派が入れていなかったことに、行動療法側がようやく目を向けるようになってきたということです。心理療法史の中でいえば、これが正しい理解だと思います。しかし、行動療法の強みである、実証性を引っ提げてきたというところが素晴らしいといえます。

 そして文脈主義の一つである「機能分析心理療法(FAP)」は、なんと勇気と愛についても言及しているそうです。

「勇気とは、その瞬間に起こっていることの意味について誠実に表現することである。そして愛とは、オープンかつ共感的で、理解を持って承認し、相手の表現を気遣う反応のことである。 p224」

 なかなか面白い表現です。こういう用語や定義を比較して研究するのもいいかもしれませんね。

 他にも、「ぼくたちは人生の方向性を自分で選べる! p270」なんて、アドラー心理学の「主体論」の主張そのままです。環境主義の行動療法はどこへ行ったのだろう。

「実証的アドラー心理学」を作るとしたら、この方向だろうと思いました。

 技法の解説も懇切丁寧で、臨床がうまくなりたい人は、是非参照してください。 

 

 

|

« スピリチュアル・タスクとセクシャル・タスクを学ぶ | Main | 『春宵十話』 »