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January 22, 2020

AAとアドラー心理学

 前記事の『アドラー心理学を生きる』(川島書店)に、心理臨床家や依存症支援者にとって注目すべき情報があります。

 アルコホリック・アノニマス(AA)の成立にアドラー心理学が影響していたかもしれないのです。

 AAは1930年代、ニューヨークシティのウィリアム・R・ウィルソン(ビル・Wとして知られる)とロバート・ホルブルック医師(ボブ医師として知られる)の二人で始められました。ビル・Wはアルコール依存症の当事者でした。彼は「12のステップ」という依存症の世界ではあまりにも有名なプログラムの発想を提案しました。

 AAはその効果から、日本を含め世界中に広がりました。それまでの医療の枠を超え、当事者が参加し発言すること、仲間意識を醸成し、人々とつながり孤独を癒すことが治療の本質であることを世界に知らしめたことで、依存症の治療に多大な影響を与えました。

 AAに始まるさまざまな自助グループ、近年盛んな当事者活動、当事者研究を見ると、まさにアドラー心理学でいう共同体感覚が極めて重要であることがよくわかります。ただ、アドラー心理学を知らない臨床心理学者、心理臨床家、医療者は何とか違う言葉をひねり出そうとしているように見えます。オープンダイアローグの中で起きていることを、研究者たちはためらいながら「愛」と言ったり、当たらずとも遠からずで、共同体感覚といった方がしっくりくると私には思えます。

 本書では、AAのアプローチとアドラー心理学のアプローチがいかに類似しているかを簡潔に指摘しています。私も精神病院勤務時代と開業してからずっと、依存症治療にかかわり、AAに通っている患者さんに会っていたので(送迎したときに参加したこともあります)、ずっと同じように感じていました。

 そして近年の研究で、単に似ているだけだなく、実際にAAの創成期にアドラー心理学の影響がうかがえることがわかったのです。

 なぜなら、ビル・Wの母親、エミリー・グリフィス・ウィルソンは「ウィーンでフロイトの元同僚であったアルフレッド・アドラーに学び、サンディエゴでアドラー派のアナリストとして活動していたから」です。

 したがって本書では、ビル・Wはアドラー的知識を持っていたのではないかと述べています。

 これは驚くべきことです。

「ビル・ウィルソンは、アメリカ文化におけるもっとも傑出した指導者の一人になった後でも、常に母親による癒しを求めていた。ビルの母は彼が11歳の時に彼の元を去ったが、それでもお互い手紙を通じて緊密にやり取りをし、それはビルが成人してからもずっと続いた」(p280)

 ビル・Wは母親から勇気づけを得て、陰に陽にアドラー心理学の発想を学び、もしかしたらというかきっと、当時ベストセラーだったアドラーの本も読んだかもしれません。詳しいことはわかりませんが、ビルのお母親も、おそらく夫(ビルの父親)といろいろあって幼い息子と離れざるを得なかったのでしょう。それでも関係を切らずに連絡を取り合っていたわけで、この二人のドラマを知りたい気もします。

 まさに臨床心理学の秘史といえそうです。

 この他に、精神科デイケアを始めた一人にアドラー派の精神科医のビエラがいたことを私は知っていました。このAAの話も北米アドラー心理学会参加時に聞いていました。デイケアと自助グループという、現在の精神医療の最重要な2つの柱にアドラー心理学が影響していたことを知り、うれしく感じたと共に「やっぱり」という思いも強くしました。

 

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