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April 22, 2021

『戦国の忍び』

 忍者とは何者か、実際どのようなことをしていた人たちだったのか、歴史学的に資料からきちんと研究した、貴重で面白い本です。

 平山優著『戦国の忍び』(角川新書)

 著者は武田氏、真田史研究の第1人者で大河「真田丸」の時代考証を担当した先生、山梨在住でなんと高校の先生でもあります。斯界では著名な方ですね。

 本書では、武田、上杉、織田、徳川、伊達、北条など戦国大名たちが雇っていた忍びの実態が古文書の引用と現代語訳で説明されていて、忍びの「労働条件」や「働き方」がうかがえて、すごく面白い。

 ただ、資料的にきちんと裏付けながら進むので、忍びの技を学ぶとか、ドラマチックな物語を期待してはいけません。

 忍びをやっていたのはどういう人たちだったかというと、有名な伊賀、甲賀といった元侍身分だけでなく、多くがアウトロー出身でした。当時は「悪党」と呼ばれる人たちだったそうです。飢饉や災害で食い詰めた庶民や身を持ち崩した侍、罪人で罪一等を減じられる代わりに忍び働きを命じられた人たちなど、その出自は多様でした。

 彼らは、諜報、索敵、待ち伏せ、暗殺、略奪、放火などの任務を務めていました。常に命がけで、侵入先で敵の忍びや兵士に見つかれば即戦闘になるので、損耗率、死亡率は高かったようです。戦国の戦というと日中行われた、大規模で華々しい戦いばかりが話に出ますが、実際の戦は忍びがいなければ成り立たなかったのでした。そのため、各大名は大量の忍びを抱えなくてはならなかったようです。

 一つの戦や城攻めに、100人単位、あるいは千人ほどの忍びが動員されたこともあったそうです。

 小田原合戦を前に関東管領・上杉憲正が「忍びはいくらでも必要だ」と話した文書もあるそうで、「彼らが常に補充を必要とされる存在、すなわち損耗率が高い人々だったことを窺がわせる」ということです。

 それでも正式に侍になれたり、土地がもらえるわけではなく、その時だけのお給金がもらえる「非正規雇用」でした。 

 戦国にハローワークがあれば、「忍び募集(随時)、給与:契約金・支度金の一時支給、ボーナスあり(敵地での略奪)、勤務時間24時間、期間:敵城の落城まで」といった求人が常にあったということになるでしょうね。

「戦場では頼りになる存在だが、素行不良で、その任務も決して洗練されているとはいえぬものとして、武士からは、蔑視の対象ともされていた。」というから、一生懸命やっても評価されにくい、かなりブラックな仕事でした。

 とても勉強になりました。

 一度、このようなリアルな忍びをテーマにした時代劇を見てみたいとも思いました。

 まさに現代のわれわれ、非正規労働者の共感を呼ぶことでしょう。

 

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