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July 01, 2025

『太極拳講義』

 太極拳に関する本は数多くありますが、自分が所属する流派、団体の太極拳でないとほとんど役に立たないものです。

 一般の方は知らないでしょうが、太極拳にはたくさんの流派、団体、組織があり、それに応じて型がたくさんあるからです。

 他の団体の太極拳の分解写真を見てもほとんど参考になりません。

 武術マニアの中には、各流派の違いを見て研究したり、楽しむ人もいますがまあ少数でしょう。

 しかし、太極拳の本質的なところは、基本的には流派を問わず共通するところがあります。

 沈剛監訳・著『太極拳講義』(文学通信)はその要望に応えてくれる本だと思います。

 著者は、呉式太極拳の伝承者で中国から日本に移住した方です。日本語も堪能です。

 呉式太極拳はいわゆる伝統武術の名門のひとつで、名人、達人を輩出した流れとして斯界では知られています。

 私は20年ほど前か、沈先生が来県した時に知人に紹介されてお会いしたことがありますが、とても穏やかで謙虚、でも推手の達人で、「いかにも太極拳家らしいな」と感じました。

 本書はその呉式太極拳で伝えられている内容を紹介しているのですが、個々の技ではなく太極拳の発想法や哲学の根源的なところ、そして太極拳の歴史を詳しく説いているので、他の太極拳修行者にも大いに参考になります。

 沈先生は、「そもそも「太極」とはなんでしょうか。気を動かすのが太極です。正しい練習を続けていれば、いずれ気を動かすことが出来るようになります」と言います。まさに伝統武術家の物言いです。

 これを受け入れて日々修練するるのが、太極拳修行者です。

 武術を現代的に解釈するのもよいけれど、伝統を伝統のままに伝えることはそれ以上に大切です。

 現代的な知の枠組みでは、とらえきれない宝物がまだ眠っているかもしれない、いや眠っているからです。

February 12, 2021

『諏訪大社と武田信玄』

 最近なぜか諏訪大社に興味を持ち、いろいろ調べています。ここでもその感想を書きました。

『諏訪の神』

 戦国呪詛合戦

 武光誠著『戦国武将の謎に迫る! 諏訪大社と武田信玄』(青春出版社)は、神話・古代から現代までの諏訪大社の歴史を描いたものです。

『古事記』では、諏訪大社に祀られている建御名方神(タケミナカタノカミ)はなぜか貶められていますが、やはり大和朝廷の神道(我々が親しんでいる天照大御神を頂点とする神道)の流れとは違うことが本書でも確認できます。

 著者によれば、諏訪地方の指導者は、「縄文人の系譜をひく農耕民の首長(守矢家の祖先)」というかなり古く長い歴史の上に、3~4世紀の「出雲系の信仰を持つ首長」、7世紀後半の「大和朝廷の文化を持つ馬を用いた首長(諏訪家の祖先)」という経過があるのではないかということです。

 諏訪大社の神道は、少なくとも3層構造になっていると考えられます。

 加えて、諏訪には奈良時代以前は仏教はほとんど入ってこず、神仏習合も鎌倉時代初めまでなかったそうです。

 その結果タイムカプセルみたいに、古代の神道が色濃く残っていることになりました。

 私としては、本書によって奈良、平安、鎌倉と続く諏訪の歴史を初めて知ることができて勉強になりました。

 そのように良い本なのですが、問題も感じました。

 タイトルにある武田信玄に関する記述が少なく、4分の1もないのです。

 その前後の武田家の歴史も書いてますが、看板に偽りあり、という感じです。

 別に『諏訪大社の歴史』で十分な内容なのですが、多分、出版社の販売戦略のために武田信玄をくっつけたのでは、とも思いました。

 おまけに著者(明治学院大学教授)は信長びいきなのか、専門が古代史らしいので知らないのか、織田軍が武田勝頼を滅ぼすときに諏訪大社を焼き討ちしたことは書いてありません。

「織田政権は、諏訪大社を軽く扱った」「民衆の反感を買った」とあるだけです。

 諏訪大社の歴史で、焼き討ちに遭ったのは大変な出来事のはずです。

 比叡山延暦寺の焼き討ちを「信長は比叡山延暦寺を軽く扱った」、東大寺の焼き討ちを「松永久秀は東大寺を軽く扱った」と記述したら大変不正確に思えます。

 実際、本能寺の変での信長の横死を神長官守矢信実は、「諏訪大明神の神罰」と断じたくらいだから(平山優『武田家滅亡』)、かなり恨まれたのでしょう。ここはもう少し当時の信仰者の心情も入れてほしかったですね。

 ともあれ、諏訪大社の歴史を学ぶにはとても良い本と思います。