July 21, 2020

『みんなのシステム論』

 アドラー心理学とも相性が良い、とても近い発想に立っている心理療法に家族療法があります。システムズアプローチともいいます。

 でもアドラー心理学を学ぶ人だけでなく、普通の傾聴中心のロジャーズ的なカウンセリングをやっている人、専門家でも精神分析学的心理療法の志向の強い人は、システムズアプローチが苦手みたいです。

 基盤となっているのがベイトソンの認識論とか、サイバネティクスとか情報理論とか、難しそうでとっつきにくさがあるからかもしれません。

 物の見方も独特だし、一対一の個別面接が好きな人は、親子や家族、カップルなどの複数人との面接は苦手な人が多いからかもしれません。

 家族療法が登場してもう半世紀は経っているのに、まだ十分に日本の臨床現場に普及しているとは言えないかもしれません。

 しかし、家族とのカウンセリング、複数の人と面接する機会のある人には絶対に知ってほしいアプローチです。

 そんなシステムズアプローチの基礎から応用まで、わかりやすく説いているのが、

 赤津玲子・田中究・木場律志編『みんなのシステム論』(日本評論社)

 私も所属している日本ブリーフサイコセラピー学会で活躍している先生方による本で、「こういう感じの実践をされているんだ」「こんなふうにやっていけばいいんだ」と確認することができて、個人的にはとても良かったです。

 前半はシステム論の解説、システムという視点で患者・クライアント・問題・症状を見るとはどういうことかを解説しています。

 リフレイミングとか、元々はシステムズアプローチから出たワードも解説されています。

 後半はさまざまな臨床現場からの報告、摂食障害、スクールカウンセリング、訪問看護、緩和ケア、養護施設、少年院など、心理職だけでなく多くの対人援助に携わる人たちがシステムズアプローチを実践している様子がわかります。とても応用範囲がひろいです。

 私は最近、非常勤講師をしている大学で、システムズアプローチの講義をしたのですが、その時に参考書として学生たちに本書を紹介しました。

 カウンセリングの腕を挙げたい人は、是非学んでください。

 

 

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March 27, 2020

『インテグラル理論』

 まさに東京ロックダウン前夜か、という感じになってきましたが皆さん、お元気でしょうか。

 まあ私の山梨は元々ロックダウンされているようなところで、ホントにするとしても主要幹線道路と鉄道を止めればロックダウンできてしまいます。数年前の大雪の時はまさにそうでしたね。

 新型コロナや自粛についていろいろ思うところはありますが、せっかくの自粛ですから本を読んだり勉強する時間にしたいですね。

 アドラー心理学をさらに進化させるために、そしてポスト・コロナの世界を展望するために、最近トランスパーソナル心理学のケン・ウィルバーに改めて注目しています。大学時代、『意識のスペクトル』(春秋社)で心理学、神秘思想、宗教学に開眼した私は一時期傾倒していましたが、臨床現場に出るにつれて次第に関心がなくなり、最近約30年ぶりに戻ってきました。

 昨年出た、ウィルバーの思想をまとめたのが、ケン・ウィルバー著『インテグラル理論 多様で複雑な世界を読み解く新次元の成長モデル』(加藤洋平監訳、門林奨訳、日本能率協会マネジメントセンター)

 以下は研究顧問を務めていたある企業の幹部と行った研究会で、私が書いたレポートの一部です。日本の古神道と臨床心理学、発達発達学を統合しようという試みの一部です。

 覚えにここでも載せておきます。

 本書の概要を知ることができると思います。

(転載貼り付け)

 統合と意識進化

はじめに

 ケン・ウィルバーは、トランスパーソナル心理学の代表的論客として知られている。80年代前半、「意識のスペクトル論」によってアメリカの心理学界に衝撃のデビューをしてから30年以上経つが、現在も精力的に著作を発表をしている。

 特に最近は「ティール組織」のアイデアを提案し、組織論の世界でも注目されているという。

 本書『インテグラル理論』はウィルバーの著書『The Theory of Everything』の最新訳であり、彼の関心の中心である人類の意識進化論と人間科学に関するあらゆる科学理論を統合する枠組みを、「インテグラル理論」として提案している。ウィルバーの仕事は、○○株式会社の研究開発、○○の関心、理論と重なるとことが多いと思われるので、ウィルバーの発想の主なところを抽出し、比較のための資料として供したい。

問題意識:意識進化の時代的必然性、統合への関心

 ウィルバーは将来の人類社会の方向性を、「意識進化」「統合」という方向で見定めている。

「人類は孤立した部族や氏族から始まり、小さな農村へと、古代国家へと、征服を求める封建帝国へと、国際的な法人型国家へと、そして地球共同体へと、歩みを進めてきた。この驚くべき進展の先に、統合的共同体(インテグラル・ヴィレッジ)が現れることは、もはや必然であるように思える。

 言い換えれば、今日、意識進化の最先端は、来るべき統合的時代ー少なくとも、その可能性―の一歩手前にまで到達しているのである。統合的時代とは、全ての人間が、人類が現在もっている全ての知識、知恵、テクノロジーに触れることができる時代である。そしてもちろん、私たちは遅かれ早かれ、全てを説明する「万物の理論」を手にすることになるだろう・・・。  p34」

 これは、現代における意識進化の必要性、必然性を訴える○○とほとんど同じ問題意識に立っているといえる。網羅性、階層性を重視するところも同様である。

ウィルバーの仕事

(1)意識進化モデルの構築

 初期のウィルバーの意識進化モデルは、心理学の心の発達理論を、仏教やスーフィー、キリスト教やユダヤ教の神秘主義の理論を接続したところに特徴があった(意識のスペクトル論)。

 本書では、さらに発達心理学や組織心理学の最新の理論を駆使して、さらに詳しく8段階のモデルを構築した(スパイラル・ダイナミクス)。各段階を色で表現しているところが特徴的である。(詳細は本書を参照)

 

世界観1 ベージュ 古代的 生存の感覚 本能と生まれ持った感覚と研ぎ澄ます

世界観2 パープル 呪術的 血族の精神 神秘に包まれた世界の中で調和と安全を求める

世界観3 レッド  呪術的-神話的 力のある神々 衝動を表現、自由になる、強い存在

世界観4 ブルー  神話的 真理の力  目的、秩序、未来を確実にする

世界観5 オレンジ 合理的 努力への意欲 分析、戦略を立てる

世界観6 グリーン 多元的 人間らしい絆 内なる自己を探求、他者を平等に扱う

(以上、第1層)

世界観7 イエロー(ティール) 統合的 しなやかな流れ 複数のシステムを統合、調整

世界観8 ターコイズ 全体的 全体の眺め シナジーを起こす、巨視的視野

(以上、第2層。ウィルバーの図は第1層が最下位にある)

 

 ウィルバーの見立てでは、現代は人口比において、ブルー段階にいる人は40%、オレンジ段階は30%で、ほとんどの人は秩序や制度、合理性の世界(ブルー、オレンジ)に存在していることになる。

 世界の多様性を認め、ポストモダンやエコロジーに関心があり、新しい世界像に関心のある人(グリーン)は10%程度しかいないという。

 それらよりもっと原始的な意識(途上国や未開社会、紛争地域にいる人:レッド、パープル)は20%程度もいるとしている。

 そして、統合的な意識に達した人、ティール組織を実践できる人(イエロー)は1%ぐらいしかいないと見ている。つまりほとんどの人は、平等性、無支配性の高い組織を作って運用するほどのレベルに達していない。

 そのためウィルバーは、人類の意識進化の道筋を描きながらも、そこに至るにはまだまだ時間がかかる、100年単位の出来事と見ているようである。そこで、意識進化の障害になるところも考察している。例えば、ベビーブーマー世代の自己中心性や、エコロジーや精神世界に関心の高いグリーンの人たちの、非合理主義や反科学主義には警鐘を鳴らしている。

 バラ色の理想をただ描くのではなく、発達の妨げになる個人心のあり様や社会の問題にも目配せしているところは参考になると思われる。

 そのようなウィルバーの現状の社会に対する認識は、広範な文献や研究を網羅しているだけあって、妥当性が高いと思われる。ただ、その意識進化の速度については、我々との認識の違いがあると思われる。

 禅を中心に修行していたウィルバーは、意識進化の方法は本書では明示していないが、瞑想を中心にした「気づきのライフスタイル」を徹底させることにあるように見える。いわば、アナログの修行方法、生活態度を中心にしている。

 その過程で、人の心理的ブロックやトラウマ、誤った価値観などで意識進化が停滞したときは、サイコセラピーや代替療法などで修正していきながら、コミュニティーの改善や政治的実践を行う(ディープエコロジーなどと呼ばれる)といった方向性と推測される。

 したがって天才と呼ばれたウィルバーでさえ、基本的には修行的、伝統的なアナログな方法による以外のイメージは乏しく、デジタルデバイスを使用しての意識進化の可能性はまったく考慮していないようである。

 また、仏教や神秘主義思想の該博な知識があるウィルバーも、日本の神道に関してはまったく言及がないので、知らないといってよいだろう。むしろ、多神教的、呪術的な宗教を意識の発達の初期の段階と捉えている(パープルやレッドの段階)ので、もしウィルバーが一般的な神道について教えられれば、意識進化の初期の段階と位置づけたかもしれない。

(パープル、レッド、ブルーの説明 p51-53)

(2)意識進化とはどんな状態か

(イエロー(ティール)、ターコイズの説明 p59-60)

 現在の人類が意識進化した状態では、柔軟さ、自発的、機能的であることがもっとも重視される。差異や多源性は統合される、自然で様々な流れが相互に依存しあう。

 全ての存在が網目細工のように絡み合っているという認識。多種多様なレベルの相互作用を認識できるようになる。どんな組織にも調和と神秘的な力を感知し、フロー状態が遍満している。

 ウィルバーは、「発達とは自己中心性の減少である。」「発達においては基本的に自己愛の減少と意識の拡大という二つの出来事が起きる。」と端的にまとめているが、自己愛(ナルシシズム)の狭い世界から人が抜け出して、「公」という広い視点を得るプロセスを意識進化とする○○のアイデアを、別の面から表現しているといえるだろう。

 ウィルバーの描く意識進化した状態と、我々の描くそれとの異同は、今後の論点となるかもしれない。

 

 

 

 

 

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February 06, 2020

催眠って何だろう

 前記事の日本催眠医学心理学会のシンポジウムで面白かったのは、「催眠とは何か?」というのがいまだに問われ続けていて、50年前も同じような議論があったと古参の会員からのコメントがあったこと。これを進歩がないとみなすか、普遍的な問いということなのか。

 少なくとも、現在の科学のパラダイム、発想ではとらえきれないところが催眠にはあるということだと私は思います。

 シンポジウムでは、自律訓練法、臨床動作法、NLP、EMDR、そして催眠療法をマスターしている研究者、臨床家が次々と登壇して、実践の様子やそれぞれの視点からトランスについて語っていました。聞いていて、EMDRのようにトランスと言っていなくても、実はどうやらトランスが治癒機制に関わっているらしい技法は数多くあるだろうと思いました。

 故成瀬先生は、催眠とは「催眠誘導過程による無意識的活動」とか定義したらしいですけど、それでいくと、

 自律訓練法による無意識的活動、臨床動作法による無意識的活動、NLPによる無意識的活動、EMDRによる無意識的活動など、それぞれの独自の方法から生み出される心的状態に別々の概念が当てられているけれど、実は全く独立の現象ではなく、同時に共通する状態もあることは否めない、それゆえにいつも催眠との共通性が指摘され、催眠とは何だ、ということになるのだと思います。

 催眠は心理療法の母、まだまだ尽きない宝が眠っていそうです。

 ちなみにシンポジストに太極拳を学んでいる人がいて、上記のトランスの他に、「武術系のトランス」という言葉を出していたのが個人的には光りました。この概念を切り口に武術と心理を語れるかもしれません。

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December 20, 2019

『幸せのメカニズム』

 フロイトの精神分析学は「人はいかにして病気になるか?」を問い、研究する学問といえるでしょう。精神分析志向のセラピストは口を開けば、「病理、病理」と口にします。

 それに対してアドラー心理学は「人はいかにして幸福になるか?」を問う学問といえます。アドレリアンは「勇気、勇気」「協力、協力」などと口を酸っぱく主張します。

 どっちが、ということではなく、究極的にはこれは好みの問題としかいえないでしょう。臨床現場的には、両方が大事ということになるのでしょうけど、やはりどちらかに傾く傾向はありそうです。アドラー寄りは、やはりブリーフサイコセラピーでしょうね。

 ちなみに行動主義は「人はいかに動物か?」「人はどのくらい機械か?」と追及しているといえるでしょう。最近は認知行動療法なんていって、「人間の顔」をしていますが😃

 アドラー派としては、その人が幸福になるプロセスや条件をできるだけ追求し、明確にすることが大切です。

 前野隆司著『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社現代新書)

 では、実証的な研究から抽出された幸福の因子を知ることができます。見るとほとんどが昔からのアドラー心理学の見解と同じなので、アドレリアンも自分の主張の傍証として本書を使うことができるでしょう。ここでその4つの因子だけを挙げておくと、

「やってみよう!」因子:自己実現と成長の因子。私は有能であり、社会の要請に応えられており、成長することができていて、自分の目標を実現できている。

「ありがとう!」因子:つながりと感謝の因子。人の喜ぶ顔が見たい、私を大切に思ってくれる人たちがいる、感謝することがたくさんある、人には親切に手助けしたいと思っている。

「なんとかなる!」因子:前向きと楽観の因子。私は物事が思い通りにいくと思う、失敗や不安をあまり引きづらない、他者との親しい関係を維持できる、自分は人生で多くのことを達成してきた。

「あなたらしく!」因子:独立とマイペースの因子。私は人と比較しない、私ができることできないことは外部の制約のせいではない、自分の信念はあまり変化しない、最大限の効果を追求する。

 研究の詳細や解説は本書をあたっていただきたいのですが、すごくいい線いっていると思いました。

 もちろん著者は、これらの4つの因子がすべてそろわないと幸せになれない、と言っているわけではないと注意を促しています。それこそ「不完全である勇気」が必要です。

 アドラー心理学の理論と照合できますし、メンタルヘルス系の研修や心理教育で使うことができると思います。

 

 

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November 28, 2019

『不登校・ひきこもりのための行動活性化』

 前記事のように『不登校に向き合うアドラー心理学』という本を出しましたが、実際の現場では学校とどう付き合うか、登校刺激をするべきかどうかが議論になります。

 アドラー心理学では、登校した方がいいとかよくないとか、登校刺激をするべきか否かということに一律に答えが出るものではないと考えると思います。あくまでその子どものニーズと家族の意向に沿って、学校との関係を整理しながらかかわっていくことになります。

 それでも私はスクールカウンセラーの時は学校側の人間でもありますから、登校できるとしたらどういう時か、どうしたら再登校してもらえるかを考えて、家族に提案することが多くあります。

 その時に大事なのは、精神論にならず具体的に助言すること。こういう時によく言われるのは、「今は充電中だから、心のエネルギーがたまってくるまで待ちましょう」という言い方です。温かく見守っていけば、自然に子どもの中に力がわいてきて、新しい行動に向かう意欲が増すかもしれないという発想でしょう。

「心のエネルギー」は確かに良いメタファーだと思いますが、よく考えると「心のエネルギーってなんだ?」「エネルギーがたまってきたってどうしたらわかるの?」という疑問もわいてきます。もっともです。

 そういう時に参照できる良書が、

 神村栄一著『不登校・ひきこもりのための行動活性化』(金剛出版)

 著者は著名な認知行動療法家です。認知行動療法は本来筋金入りの科学主義、客観主義ですから、本音では心のエネルギーなんて曖昧な言葉は使いたくなさそうな感じですが、それを逆手にとって、行動レベルで心のエネルギーなるものを理解し実践するためのノウハウがたくさん説かれていて、特に再登校を目指す時にはすごく参考になります。

 著者は基本的には子どもは学校に行った方が良い、その方が後で後悔が少ないという立場のようです。データを示してそれを主張しています。それももっともなところはあります。学校がまともでそれなりに良いところがあるなら、やはり子どもが通ってくれた方が親にも本人にも良いに決まっています。

 また、睡眠やゲーム依存についても、現在の普通の臨床現場で可能なことを書いています。

 今年の5月に出た本で、私は自分の本の原稿を仕上げた後だったので取り上げることができませんでしたが、間に合っていたら間違いなく引用文献に入れていたでしょう。

 不登校に関わるスクールカウンセラーや教師の方は是非学んでみてください。

 

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October 07, 2019

『二月の男』

 前記事でご案内した演武会に昨日行ってきました。

 台湾の老師や日本の本部の指導員たちの八卦掌や形意拳の数多くの型、太極拳を見て、改めてうちの流派は中国文化の粋であり、深い伝統に裏打ちされていることを実感しました。みなさん、素晴らしい動きでした。

 他の武術・武道団体から、うちは保守的で閉鎖的と見られることが多いみたいですが、そうなるのも無理ないかもしれません。それだけ中身が豊富で濃いので、「時代に合わせて」なんて、容易に変えるわけにはいかないのだろうと思いました。保存し、伝えること、それはそれで大変大切なことなのだろう、継承者である老師たちの苦労は大変なものだろうと思いました。

 さて、武術にも深い意味で関連のある催眠について、私は週末に集中的に学ぶ機会を得ています。来週にその報告したいと思いますが、催眠といえばミルトン・エリクソン、彼の実際の事例を詳細に記録したのが、

 ミルトン・H・エリクソン、アーネスト・ローレンス・ロッシ著、横井勝美訳『ミルトン・エリクソンの二月の男 彼女は、なぜ水を怖がるようになったのか』(金剛出版)

 エリクソンが最も働き盛りの1945年の頃の事例の記録を、晩年の1979年にエリクソンと弟子たちが振り返るという面白い構成になっています。「江夏の24球」みたいな感じですね。

「二月の男」とは、クライエントである19歳の女性が、自らのトラウマ体験に直面するためにトランスに入った時に登場するエリクソンの「名前」です。深いトランス状態に入ったクライアントの心の中に、エリクソンではなく、「私は二月の男ですよ」(その場面が2月だったから)と称して登場するのです。

 そんなことできるんだあ、と驚きです。

 一読して、エリクソニアンでも専門の催眠療法家でもない私には正直、わかりにくいところもありましたが、実際の会話の様子がたくさん出ているので、一人ロールプレイみたいに朗読して、その場の感じや催眠の語り方を感じ取ろうと努めました。

 本書でエリクソンは、クライアントを全体として見ることを言っていたり、クライアントが困難を克服するために盛んに勇気づけていたり、「エリクソンってアドラーっぽいな」と以前から感じていたことを再確認しました。その方法として、意識的なコントロールが弱まる催眠を利用しているところが、エリクソン独自のところなのでしょう。

 臨床がうまくなりたい人は、読んでみて損はないと思います。

 

 

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September 25, 2019

『身体はトラウマを記録する』

 トラウマケアの世界的権威の本、各方面で絶賛されているベッセル・ヴァン・デア・コーク著『身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法』(紀伊国屋書店)は、いわゆるトラウマの諸症状とその悪影響、脳科学的知見、そして効果的なセラピーの方針と方法まで網羅されています。分厚いですが、カウンセラーは是非読んでみるといいと思います。

 その中で私が注目したのは、トラウマケアに通常の心理療法や環境療法だけでなく、身体にアプローチすることを強調していることです。

 深刻なトラウマ治療のために著者は、マインドフルネス瞑想はもちろん、ヨガや気功、太極拳、日本の武道や護身術などもどんどん取り入れています。演劇もあります。

 私が以前から感じていた、「太極拳や気功はトラウマの治療に良いんじゃね?」という思いを見事に裏打ちしてくれていて、うれしかったですね。これまでは、権威もなく研究者でもない私が言い始めれば、「また深沢が変なことをやっている」と指弾されかねませんでしたが、これからは堂々と論陣を張れますね。

 というか、私がやらなくても、真似っこ好きな日本の学者や臨床家は、これからは本書で紹介している新旧の身体的アプローチどんどん取り入れていくことでしょう。それでエビデンスらしきものがたまってくれば、余計に田舎セラピストの私も使いやすいので、それはそれでありがたいです。

 関連個所を引用、メモします。みんな、気功や太極拳をやろうぜ。

(貼り付け始め)

 私たちはまた、呼吸法(プラーナヤーマ)や詠唱(チャント)から、気功のような鍛錬法や武道、ドラム演奏や合唱、ダンスまで、西洋医学の外で長年行われてきた、他の古い、日薬理学的な取り組みの価値も、受け容れやすくなった。これらの取り組みはみな、人と人の間のリズムや、内臓感覚の自覚、声や表情による意思疎通に依存している。それらは、人が闘争/逃走状態をを脱し、危険の近くを立て直し、人間関係を管理する能力を増進するのを助ける。  p143-144

 これまで多くの患者が、合唱や合気道、タンゴのダンス、キックボクシングにどれだけ助けられたかを語ってくれた。  p350

ヨーガグループの参加者は、PTSDにおける覚醒の問題が有意に改善され、自分の体との関係が劇的によくなった(「今は自分の体をいたわっている」「自分の体が必要としているものに耳を傾けている」)  p445

 ヨーガを20週間実習すると、基本的な自己システムである島と内側前頭前皮質の活動が増すことを、初めて示す結果が出た。  p452

 通常、人は前頭前皮質の実行能力のおかげで、何が起こっているかを観察し、ある行動をとれば何が起こるかを予想し、意識的な選択ができる。思考や感情や情動を冷静かつ客観的に観察し(この能力のことを、私は本書を通じて「マインドフルネス」と呼ぶ)、それからじっくり反応できれば、実行脳は、情動脳にあらかじめプログラムされていて行動様式を固定する自動的な反応を、抑制したり、まとめたり、調節したりすることが可能になる。 p105

マインドフルネスを実践すると、交感神経系が落ち着くので、闘争/逃走反応を起こしにくくなる。  p341

 マインドフルネスを練習すると、脳の煙探知機である扁桃体の活性化が抑えられ、トリガーになりそうなものに対して反応しにくくなりさえすることが立証された。  p348

(貼り付け終わり)

 

 

 

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September 03, 2019

『マンガでわかる家族療法』

 私は家族療法家というほどではありませんが、元々児童相談所出身ということもあって、家族面接は数限りなくこなしてきました。いろんな子どもや家族にお会いしてきました。

 ただ、家族療法の専門的なトレーニングは受けたことはなく、1日の研修会に数回出た程度で、あとは数をこなして何となく会得というか、乗り切ってきた感じです。

 ただ、アドラー心理学には家族療法と通じるものがあるし、家族療法の思想的元祖であるグレゴリー・ベイトソンを発想の根源にしているので、何となく家族療法っぽい臨床になっている(している)と思っています。

 さらにもう10年以上、地元で児相の仲間と「山梨家族療法研究会」という勉強会を立ち上げ、今でも月1回のペースで続けています。

 その中で家族療法の達人として名高い東豊先生の著書は、よく参考にさせていただきました。学術書というより、エッセイのような親しみやすいスタイルがとてもわかりやすかったです。ただ、先生のやっていることがわかりやすいということはなく、実際どんな感じなのだろうと思うことしばしばでした。よく「あれは、天才・東先生だからできたことだ」なんて言う人もいます。

 そんな疑問に応えてくれるのが、

 東豊著『マンガでわかる家族療法 親子のカウンセリング編』(日本評論社)

 なにせ、マンガですからね、主人公のおじさんセラピスト(ルックスは先生とは大分違いますが)の振る舞いや発言は、きっと東先生のものなのだろうという感じです。

 不登校、夜尿、性的非行など、やっかいな問題を一見型破りな家族面接を通して家族が変わり、本人が変わっていく、そんなプロセスを眺めることができます。

 これまで、マンガでフロイトやユング、アドラーなどの人生や心理学を解説したものはあっても、セラピー自体をマンガにしたものはなかったように思います。

 本書は臨床家の間で好評なようで、既に続編も出ています。

 セラピーがうまくなりたい人、取り分け子どもや家族を支援する人は是非楽しみながら、勉強してください。

 

 

 

 

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August 15, 2019

『はじめてまなぶ行動療法』

 SNS等で心理専門家、学生の間で評判の高い本です。行動療法の基礎から最先端の動向まで学べます。

 三田村仰著『はじめてまなぶ行動療法』(金剛出版)

 一読して、私も改めて行動療法の世界を整理できた感じです。公認心理師試験の受験生にも役立ちそうです。

 本書によると、行動療法には大きく二つの流れがあるといいます。「要素実在主義」と「文脈主義」です。前者はイギリス発祥でアイゼンクやウォルピの系統、不安症が主なターゲットで、認知行動療法やマインドフルネス瞑想はこの流れの中にあるといいます。

 後者はアメリカ発祥で、スキナーの徹底的行動主義の発展形といえ、障害者の療育から始まり、現在幅広く応用されるようになってきており、最近は弁証法的行動療法(DBT)やアクセプタンス・アンド・コミットメント・セラピー(ACT)などが最新のアプローチです。

 初心者向きとありますが、原理的なところをきちんと押さえているので、心理療法全般を思想的基盤から考えたい人にも役立つ内容でしょう。

 アドラー心理学からすると、この二つの中では「文脈主義」が近いところにあるように思われます。価値とか文化的要因も加味して、コミュニケーションの全体を重視するからです。アドラー心理学は深層心理学というより「文脈心理学」といった方が正確であるとは、海外の文献でも昔から言われていたので、言葉からしても、内容的にも近いのは間違いありません。

 実際、何年か前の日本心理学会でアドラー心理学シンポジウムがあったとき、シンポジストの一人としてお話しさせていただきましたが、アドラー心理学は「ACTに似ている」と感想を持った方がいたようです。

 科学的であれ、価値中立的であれ、という態度が絶対的だったイメージの行動科学、行動療法が価値を重視するようになったのは時代の流れを感じます。昔だって実際はそれは建前で、現場のセラピストが価値中立的なはずはないのですが、今や堂々と価値を語れるようになったということなのでしょう。

 今私が大学生だったら、アドラーを知らなければ、これを学んだかもしれません。科学的であることにそんなに魅力を感じなかったので、その時は。行動療法家への道は考えませんでした。

 「第三世代の行動療法」ともいわれるこの流れの特徴は、以下の通りだそうです。

(1)文脈と機能を重視すること、(2)症状の治療を超えてクライエントの人として生きる機能を高めること、(3)理論や技法をセラピスト側にも向けること、(4)これまでの行動療法や認知行動療法に延長に位置づけられること、(5)人間の抱える大きなテーマ(例:価値、自己)も積極的に扱う  p25

 (4)以外は、まったくアドラー心理学と一緒です。私から見れば文脈主義的行動療法は、当人たちが言うほどまったく新しいアプローチではなく、昔からアドラー心理学が射程に入れていたところで、他の心理療法学派が入れていなかったことに、行動療法側がようやく目を向けるようになってきたということです。心理療法史の中でいえば、これが正しい理解だと思います。しかし、行動療法の強みである、実証性を引っ提げてきたというところが素晴らしいといえます。

 そして文脈主義の一つである「機能分析心理療法(FAP)」は、なんと勇気と愛についても言及しているそうです。

「勇気とは、その瞬間に起こっていることの意味について誠実に表現することである。そして愛とは、オープンかつ共感的で、理解を持って承認し、相手の表現を気遣う反応のことである。 p224」

 なかなか面白い表現です。こういう用語や定義を比較して研究するのもいいかもしれませんね。

 他にも、「ぼくたちは人生の方向性を自分で選べる! p270」なんて、アドラー心理学の「主体論」の主張そのままです。環境主義の行動療法はどこへ行ったのだろう。

「実証的アドラー心理学」を作るとしたら、この方向だろうと思いました。

 技法の解説も懇切丁寧で、臨床がうまくなりたい人は、是非参照してください。 

 

 

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June 19, 2019

『無意識に届くコミュニケーション・ツールを使う』

 最近、古神道やシャーマニズムに関心があり、それに最も近い心理現象は催眠トランスであることは間違いないので、積極的に学ぼうとしています。

 日本の催眠臨床の第一人者の松木繁先生(前鹿児島大学教授)の『無意識に届くコミュニケーション・ツールを使う 催眠とイメージの心理臨床』(遠見書房)は、「効果的なコミュニケーションとしての催眠」という視点と、ご自身の豊富な臨床体験から催眠を論じた本です。

 催眠は「かける/かけられる」という一方的な関係性ではなく、共同作業であり、協力関係であるというのが著者の主張です。そしてクライエントとセラピストは、主観的には催眠状態を共有している状態」になります。セラピーはそこから続いていきますが、それは「クライエントーセラピスト間の相互作用による一つの創造的仕事としての面接」を行っていることになります。その結果、ミルトン・エリクソンのいう「無意識の力」、「人の奥深くにある知恵を持った自己」が活性化し、自己治癒力を高めることができる(p28)のです。

 催眠状態だからこそ、全ての心理療法に必須の「守られた空間」が作りやすく、そして、クライエントの主体的な活動性が自己効力感を高め、変化の可能性を開けると筆者は説きます。

 私もたまに催眠をしますが、なんかわかる気がします。普通の言語的セラピーにはない面白さがありますね。

 本書で語られていることは、一般の人たち、催眠を知らないセラピスト、カウンセラーの催眠のイメージとはだいぶ違うかもしれません。

 セラピストにとって本書は初級編というより中級編という感じですが、催眠に関心のある方は是非本書に当たったり、著者から学んでみるといいと思います。

 

 

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